「ワシが不動産屋のイロハ教えたるわ!」居酒屋で意気投合した70歳と32歳。しかし最初だけだった…話

 

大阪市内の、とある居酒屋。

 

カウンターで一人、瓶ビールを飲んでいる

70歳くらいの男性がいました。

 

この男性、実は不動産会社の社長。

不動産業界に入って40年以上。

 

バブルも、その崩壊も、リーマンショックも、

コロナ禍も経験してきた筋金入りです。

 

最近考えることといえば、

「次の宅建免許の更新……どうしよかなぁ」

 

そろそろ引退の二文字も

頭をよぎる年齢になりました。

 

そんな社長の隣へ、

30代前半くらいの男性が座りました。

 

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たまたま話し始めると――。

 

「兄ちゃん、何の仕事してんの?」

「不動産です」

 

「おお!ワシも不動産屋や!」

「ホンマですか!」

 

聞けば若者は、現在不動産会社に勤務していて、

近いうちに独立開業する予定だという。

 

70歳「そらええやないか!

若いうちに独立したほうがええ!」

 

32歳「ありがとうございます!」

 

「まあ一杯!」

カンパーイ!

 

野球の話。

大阪の不動産価格の話。昔の景気の話。

最初の10分ほどは、それはもう意気投合。

 

70歳社長も嬉しくなってきました。

 

(ワシもそろそろ引退や。

この兄ちゃんに40年以上かけて身につけた

“不動産屋のイロハ”を教えたろ!)

 

もちろん親切心です。

 

しかし――。

意気投合したのは、どうやら最初だけでした。


「まず店は人通りの多いところや!」――「店、出さないです」

 

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70歳社長、まずは開業の基本から。

 

70歳「兄ちゃん、店どこに出すんや?」

32歳「店舗は出さないですよ」

 

「…………え?」

「小さい事務所だけ借ります」

 

「いやいや。ほんなら店頭に

物件資料貼られへんやないか」

 

「貼らないです」

「…………。」

 

いきなりである。

 

70歳社長が40年以上信じてきた

**「不動産屋とはこういうもの」**が、

開始30秒で否定された。

 

しかし、まだ大丈夫。

時代が違うんや。

 

気を取り直して次のアドバイス。

 

70歳「ほんなら名刺はええの作れよ。

紙はちょっと厚めでな」

 

32歳「名刺って、そんな使います?」

 

「使うやろ!」

「LINE交換したほうが早いですよ」

 

「…………LINEはワシもやっとるわ!」

なぜかちょっと怒る。

 


「とにかく電話せえ!」――「電話営業しないです」

 

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まだまだ70歳社長は諦めません。

「不動産屋いうたら人脈や。

地主さん回ってな。電話もどんどんせなあかん」

 

ところが若者。

「僕、電話営業はあんまり考えてないです」

 

「……何すんねん?」

「SNSです」

 

「SNS?」

「Instagram、TikTok、YouTubeとかですね」

 

「…………TikTokで家売るんか?」

「いや、そこから問い合わせを取るんですよ」

 

「電話したほうが早いやろ」

「若い人、知らない番号から

電話かかってきても出ないですよ」

 

「不動産屋が電話せんで、

どうやって不動産屋すんねん!」

 

もう全然噛み合わない。

 

そして70歳社長、最後の砦へ。

「FAXはいるぞ!」

 

「いらないです」

 

「いる!」

「メールでいいじゃないですか」

 

「FAXのほうが早いやろ!」

「メールのほうが早いですよ」

 

「…………。」

 

もはや何のアドバイスか分からなくなってきた。

 

70歳社長は焼酎を一口飲んだ。

ワシ、浦島太郎になったんやろか……。

 


笑い話のようですが、不動産業界では本当に大きな入れ替わりが起きています

 

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実は、この二人の会話。

ただの世代間ギャップではありません。

 

今の不動産業界を調べてみると、

面白い数字が出ています。

 

東京商工リサーチによると、2025年に不動産業で

休廃業・解散した会社は2,000社。

 

さらに同調査対象では倒産136社、

合計2,136社が市場から退出し、

過去10年間で最多となりました。

(株式会社東京商工リサーチ)

 

「やっぱり不動産屋も景気悪いんや!」

……と考えるのは、ちょっと早い。

 

同じ調査では、不動産売買を主力とする

6,090社の売上高は前年比7.9%増、純利益も6.8%増。

 

84.9%が黒字でした。もちろん会社による格差はありますが、

業界全体が不況でバタバタ潰れているという

単純な話でもありません。(株式会社東京商工リサーチ)

 

そして全業種の休廃業・解散企業を調べると、

2025年は代表者の90.6%が60代以上。

 

80代以上だけでも34.0%を占めています。

 

高齢化や後継者不在による退出が本格化しているわけです。

 

なお、これは不動産業だけではなく

全業種の数字なので、そこはお間違いなく。

(株式会社東京商工リサーチ)

 

つまり、居酒屋の70歳社長の、

「次の免許更新、どうしよかなぁ」

 

も、案外珍しい話ではないのかもしれません。


ところが不動産屋は減ってへん!むしろ増えとるやないか!

 

 

ここからが面白い。

 

国土交通省によると、2025年3月末の

宅地建物取引業者数は全国で13万2,291業者。

 

前年より1,708業者増えています。

 

しかも――11年連続増加。(国土交通省)

 

「ちょっと待て!」

2,000社も休廃業・解散しとるのに、

不動産屋増えとるやないか!

 

そうなんです。

 

辞める人がいる一方で、新しく入ってくる人もいる。

 

まさに居酒屋の二人です。

 

70歳、

「そろそろ辞めよかな」

 

32歳、

「これからやったるで!」

 

不動産業界は縮小しているというより、

中にいる人たちが大きく入れ替わっている

最中なのかもしれません。

 


大阪は特に「新しい不動産屋」が元気?

 

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さらに大阪では興味深い数字があります。

 

2024年の不動産業の新設法人率を見ると、

全国トップは東京都千代田区の9.6%。

 

そして第2位が――

大阪市港区、7.0%。

 

さらに全国上位20地域のうち、

大阪市内が5地域も入っています。

(株式会社東京商工リサーチ)

 

そら街を走っていても、

「こんなところに不動産屋できたんや」

ということがあります。

 

若い営業マンが独立する。

小さな事務所から始める。

 

店舗に物件なんか貼らない。

スマホ一台で問い合わせを取る。

 

SNSで物件を紹介する。

 

70歳社長からしたら、

「それホンマに不動産屋なんか?」でしょう。

 

でも若者からすれば、

「社長、そのやり方いつまでやってるんですか?」

なのである。

 


さらに大阪では外国人系の不動産会社も存在感

 

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そして大阪の街を見ていると、

もう一つ変化を感じます。

 

外国人が経営する不動産会社や、

外国人顧客とのネットワークを強みにする会社です。

 

もちろん外国人経営の会社がすべて自国の人だけを

相手にしているわけではありません。

 

しかし、中国語など外国語で直接営業できたり、

海外の投資家や日本に住む同言語圏の人たちと

独自のネットワークを持っていたりする。

 

これは昔の街の不動産屋にはなかった強みです。

 

70歳社長、

「地域の地主さんならだいたい知っとるで!」

 

若手、

「SNSから集客します!」

 

外国人系業者、

「海外のお客さんから直接問い合わせ来ます!」

 

同じ不動産屋やのに、商売の入口が全然ちゃう。

 

大阪の不動産業界、

ずいぶん賑やかになりました。


しかし若者よ。長屋はTikTokだけでは買われへんで

 

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ここまで若者に押されっぱなしの70歳社長。

 

ところが、話が仕入れになると少し風向きが変わります。

32歳「僕、独立したら買取もやりたいんですよ」

 

「何買うんや?」

「大阪市内なら何でも。長屋とか

再建築不可も利益取れそうじゃないですか?」

 

70歳社長の目が変わった。

 

「兄ちゃん、長屋買ったことあるんか?」

「ないです」

 

「借地は?」

「ないです」

 

「私道は?」

「まあ謄本見れば……」

 

「謄本だけ見て全部分かるかいな!」

 

連棟。私道。借地。境界。再建築不可。

越境。昔からの地主さん。隣のおっちゃん。

 

70歳社長が40年以上かけて覚えてきた世界は、

検索しても全部出てくるわけではありません。

 

「兄ちゃん。不動産いうんはな、

ネットに出てへんことのほうが怖いんやで」

 

「なるほど……」

 

おっ!

初めてアドバイスが刺さった!

 

70歳社長、ちょっと嬉しくなる。

 

すると若者が言いました。

「社長、それ動画にしたらバズりそうですね!」

「…………。」

 

また噛み合わなくなった。


筆者の独り言――不動産屋は減るんやなくて「変わる」のかもしれません

 

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私はこの数字を見て、不動産業界が

衰退しているというより、

大きな世代交代の途中なんかなと思いました。

 

昔ながらの不動産屋には、その街で何十年も

仕事をしてきたからこその知識があります。

 

一方、若い人にはスピードがあります。

新しい営業方法も使う。

 

さらに外国人経営者や海外顧客を持つ会社など、

今までとは違うプレーヤーも入ってくる。

 

そして競争が激しくなれば、

当然うまくいく会社ばかりではありません。

 

実際、別集計の2025年全国企業倒産では、

不動産業は331件、前年比18.2%増となっています。

(株式会社東京商工リサーチ)

 

引退する人。

これから勝負する人。

新しい市場から入ってくる人。

 

同じ「不動産屋」の看板を掲げていても、

中身はこれからもっと変わっていくのでしょう。

 

さて――。

 

居酒屋では、そろそろお開きの時間です。

 

70歳社長は勘定を済ませ、

席を立ちました。

 

今日は若者に不動産屋のイロハを教えるつもりだった。

 

でも、何を言っても、

「それやらないです」「SNSです」「LINEです」

「AI使います」最後まで、ほとんど噛み合わなかった。

 

70歳社長は店を出る前、

若者のほうを振り返りました。

 

70歳「……まあ、儲かればええけど」

「お疲れさまでした!」

 

店を出ていく70歳社長。

 

残された32歳は、

その後ろ姿を見ながら少し考えました。

 

そして――。

32歳「……何言うてはるか、よう分からんかったわ」

 

店員さんを呼びます。

「すいませーん!生もう一杯!」

 

グラスが届く。

「さて、飲み直そか!」

 

世代交代とは――

案外、こんなもんかもしれません。

 

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筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
  • 宅地建物取引士
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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