『売れたと思って寿司食べに行ったのに・・・。大阪のおっちゃんの悲しい話【後編】』 ~・・・でした。その一言で大トロが消えた日~

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前編を読んでいない人のために

簡単に説明しておこう。

 

大阪市内の相続した実家を売りに出した山田さん。

 

半年はかかると思っていた家に、

まさかの一週間で申込みが入った。

 

しかも満額。

契約も無事終了。

 

手付金も受領。

 

その夜は家族で寿司屋へ行き、

大トロ、ウニ、日本酒まで注文した。

 

山田さんは人生の絶頂期を迎えていた。

 

しかし、その頃どこかで運命の歯車は

静かに逆回転を始めていたのである。


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契約が終わってからの一か月。

 

山田さんは実に幸せだった。

 

近所のおっちゃんに会えば、

「売れたで」と言う。

 

飲み会へ行けば、「一週間や」と言う。

 

親戚の集まりでは、

「今の大阪市内は強いなぁ」と語る。

 

その頃には販売開始一週間だった

話も少し成長していた。

 

姫路の弟には「一週間」だった。

 

同級生には「五日」になった。

 

飲み会では「三日」になった。

 

そしてゴルフ仲間には「出した瞬間や」

になっていた。

 

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人間というのは面白い。

魚も話も時間が経つと大きくなる。


しかし山田さんはまだ知らない。

 

その話を全部回収しなければならない日が来ることを。


その頃、仲介会社の

新人営業マンも少し気になっていた。

 

今回の買主さん。

 

感じも良い。

年収も普通。

勤続年数もそれなり。

 

見た感じ何の問題もない。

 

だから事前審査を取らずに

契約まで進めてしまった。

 

上司も言った。


「まぁ大丈夫やろ」


不動産業界で一番怖い言葉である。


私も長年この仕事をしている。

 

経験上、「まぁ大丈夫」

と言われた案件ほど後で事件が起きる。


逆に「これは難しいぞ」

と言われた案件の方が案外まとまったりする。


 

人生も不動産もそんなものである。

 


 

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契約から約一か月後。

 

その日は火曜日だった。

天気は良かった。

 

山田さんは特に何もしていなかった。

 

退職後の平和な昼下がりである。

テレビではワイドショー。

 

お茶を飲みながらのんびりしていた。

すると携帯電話が鳴った。

 

仲介会社からだった。

 

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その瞬間、

なんとなく嫌な予感がしたらしい。


これ、不思議なものである。

良い話の時と悪い話の時では営業マンの声が違う。


電話に出た瞬間、山田さんは思った。


「あれ?」


いつもの元気がない。


営業マンもなかなか本題に入らない。


「暑いですね」


「体調どうですか」


「お変わりないですか」


そんな話はいらんのである。


本題を言え。


そう思った頃だった。

営業マンがようやく口を開いた。

 

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「あの・・・住宅ローンなんですが・・・」


ここで山田さんは悟った。


あかん。


これはあかんやつや。


長年生きていると分かる。

 

良い話なら最初に言う。

悪い話だから前置きが長いのである。


そして数秒の沈黙。


実際は数秒だったと思う。

しかし山田さんには数分に感じた。


営業マンは意を決したように言った。


「通りませんでした」


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。

 

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その瞬間、

山田さんの頭の中から大トロが消えた。


続いてウニも消えた。


日本酒も消えた。


 

代わりに冷や汗が出てきた。

 


 

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営業マンは続ける。


「住宅ローン特約により白紙解約になります」


「手付金は返金をお願いします」


「契約は無かったことになります」


山田さんはしばらく言葉が出なかった。


いや、正確には


「え?」


しか出なかった。


人間というのは本当に理解できない時、

語彙力がなくなる。


頭の中では色んなことを考えている。


しかし口から出るのは


「え?」


だけである。


電話を切った後もしばらく動けなかった。


売れへんかった。


また最初からや。


そう考えた。


しかし実はもっと恐ろしいことに気付いた。

 

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親戚である。


友達である。


近所のおっちゃんである。


全部言うてしもた。


「売れたで!」


と。


今度は説明会である。


これが辛い。


家が売れへんかったことより辛い。


大阪のおっちゃんにとって見栄というのは案外大事なのである。


その日の夕方。

姫路の弟へ電話した。


「実はな・・・」


弟が聞く。


「どうした?」


山田さんは言った。


「売れてへんねん」


弟は意味が分からない。


「は?」


当然である。

 

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一か月前に


「一週間で売れた!」


と聞かされている。


今さら売れてへんと言われても理解できない。


説明する山田さん。


聞く弟。


沈黙。


そして最後に一言。


「寿司食うてたやん」

 

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山田さんは言った。


「それ言うな」


これが辛い(笑)。


 

しかし本当のラスボスは家にいた。

 


奥さんである。


その夜、

山田さんは恐る恐る報告した。


「実はな・・・」


奥さんは察した。


女性というのは勘が鋭い。


「何?」


「ローンあかってん」


奥さんは数秒黙った。


そして静かに言った。


「だからまだや言うたやん」


正論である。


百点満点の正論である。


しかし正論ほど人を傷付けるものはない。

 

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山田さんは何も言い返せなかった。


なぜなら奥さんが完全に正しかったからである。


しかも続く。


「寿司美味しかったな」


追い打ちである。


山田さんは天井を見た。


人生とは厳しい。


その後、

山田さんは何度も言った。

 

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「寿司代返せ」


もちろん返ってこない。


大トロも返ってこない。


ウニも返ってこない。


日本酒も返ってこない。


そして親戚に吹いて回った自慢話も返ってこない。


人生で一番高い大トロだった。


 

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しかしここで真面目な話をしておきたい。


実はこういう話、

珍しくない。


不動産売買は契約したら終わりではない。


むしろ契約してからが本番である。


住宅ローン。


転職。


勤務先の問題。


借入発覚。


色々なことが起きる。


だから本当に安心できるのは、

決済が終わり、通帳にお金が入り、

鍵を渡した後である。

 

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私は今でも売主さんによく言う。


「寿司は決済後にしてください」


すると皆笑う。


しかし私は本気で言っている。


もっとも・・・。


もし販売開始一週間で満額申込みが入ったら、

私もたぶん寿司屋へ行くと思うけど(笑)。

 

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おわりに

 

山田さんの家はその後どうなったのか。

 

それはまた別の話である。

ただ一つだけ確かなことがある。


山田さんは今でも寿司屋の前を通ると、

少しだけ複雑な顔をするらしい。


特に大トロを見ると、

住宅ローン特約を思い出すそうである(笑)。

 


 

~契約はゴールではありません。

寿司は決済後。

それが大阪のおっちゃんが身をもって学んだ教訓でした。

筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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