70歳を過ぎて念願の田舎暮らしへ――天神橋筋商店街近くで50年暮らした老夫婦の決断 ~丹波篠山の晴耕雨読生活。その先に待っていたものとは?~
さてさて、70歳を過ぎてから住み慣れた大阪を離れ、
田舎暮らしを始めた老夫婦がおりました。
ご主人には、長年温め続けてきた夢がありました。
「いつか田舎へ移って、畑でも耕しながら静かに暮らしたい」
晴れた日は畑を耕し、雨の日は本を読む。
まさに晴耕雨読。
都会の喧騒から離れ、自然に囲まれながら
夫婦二人でゆっくり暮らす。
それが、ご主人の思い描いた理想の老後でした。
天神橋筋商店街近くの長屋で50年
老夫婦が住んでいたのは、大阪市北区。
天神橋筋商店街から歩いて行ける古い賃貸長屋でした。
そこで暮らし始めて、早50年。
若かった夫婦も70歳を超え、子どもは独立。
長屋も夫婦と一緒に年を重ねてきました。
玄関を開ければ、すぐ近くに商店街があります。
醤油が切れたら買いに行く。
晩ご飯のおかずが足りなければ、総菜を一品追加する。
病院、銀行、飲食店、喫茶店、薬局。
日常生活に必要なものは、
歩いて行ける範囲にほとんどそろっていました。
電車に乗るにも便利です。
バスも走っています。
少し足を延ばせば梅田にも行けます。
けれど、便利な場所で50年も暮らしていると、
その便利さが当たり前になってしまいます。
ご主人の目には、長屋の外に広がるにぎやかな大阪よりも、
静かな田舎の風景のほうが魅力的に映るようになっていました。
「残りの人生、土でも触りながら暮らしたいやんか」
奥さんは、あまり乗り気ではありません。
「私はここでええねんけどな……」
それでも、長年連れ添ったご主人の念願です。
奥さんは渋々、50年間暮らした長屋を退去し、
ご主人についていくことにしました。
向かった先は丹波篠山
二人が選んだのは丹波篠山でした。
自然が豊かで、大阪からまったく行けない距離でもありません。
空き家バンクで見つけた家には畑もありました。
そして家賃は、なんと月額1万円。
「1万円やったら、年金生活でも十分やっていける!」
ご主人は大喜びです。
都会では考えられない家賃です。
目の前には畑があり、周囲には豊かな自然が広がっています。
朝は鳥の声で目を覚まし、昼間は畑で野菜を育てる。
夕方には夫婦で収穫した野菜を食べ、
雨の日は家の中で読書をする。
ご主人の頭の中では、
理想の田舎暮らしがすでに完成していました。
ところが、実際に暮らし始めると、
夫婦は少しずつ違和感を覚えるようになります。
病院へ行くにもバスに乗らなあかん
最初に不便を感じたのは、奥さんでした。
70歳を過ぎれば、
若い頃より病院へ行く機会が増えます。
天神橋筋商店街近くで暮らしていた頃は、
病院や診療所を選べるほどありました。
ところが丹波篠山での新居から病院へ行くには、
バスを利用しなければなりません。
「病院へ行くだけで、バスの時間を調べなあかんの?」
都会に住んでいる時には、
考えたこともありませんでした。
バスは電車のように次々と来るわけではありません。
一本逃せば、次まで待たなければならないこともあります。
通院が、ちょっとした一日の行事になってしまいました。
そして、ある日の夜。
奥さんが台所で醤油を切らしてしまいました。
「ちょっと買うてくるわ」
大阪にいた頃と同じ感覚で出かけようとしたところ、
近くのスーパーはもう閉まっています。
「まだ夜の10時やで?」
天神橋筋商店街近くなら、どこかの店が開いています。
コンビニもあります。
しかし、田舎では大阪の常識が通用しません。
醤油一本を買うためにも、
営業時間と距離を考えなければならない。
奥さんの中で、小さな不満が少しずつ積み重なっていきました。
ご主人を待っていた田舎暮らしの現実
一方のご主人も、思い描いていた晴耕雨読生活とは
少し違う現実に直面していました。
田舎では、ご近所とのつながりが大切です。
誰がどこに住み、どの畑を使い、
地域にどのような決まりがあるのか。
都会の賃貸住宅とは違い、周囲との関係を
抜きにして生活することはできません。
ご主人は、そのご近所付き合いに四苦八苦しました。
都会では隣に誰が住んでいるか知らなくても生活できます。
しかし田舎では、そうはいきません。
静かな田舎暮らしを求めてやって来たはずが、
意外にも人間関係で気を遣う毎日になりました。
そして、念願だった畑仕事。
見るのと、実際にするのとでは大違いです。
土を耕し、草を抜き、水をやる。
暑い日も寒い日も、野菜は
こちらの都合に合わせて育ってくれません。
最初は楽しそうに畑へ出ていたご主人でしたが、
慣れない作業を続けるうち、
とうとう腰を痛めてしまいました。
「いててて……」
晴れた日は畑を耕すはずが、
晴れた日も家の中で腰をさする生活です。
病院へ行こうにも、簡単には行けません。
「これ、介護タクシーを頼まなあかんのとちゃうか……」
夢の晴耕雨読生活に、少しずつ暗雲が立ち込めてきました。
「田舎じゃ住まれへんわ」
田舎暮らしを始めてから、約1年半。
ある日、奥さんがついに言いました。
「私、田舎じゃ住まれへんわ」
買い物が不便。
病院へ行くのも大変。
ご主人は腰を痛め、畑仕事も思うようにできません。
70歳を過ぎてからの生活では、自然の豊かさや
家賃の安さだけでなく、病院、買い物、
交通手段のほうが大切だったのです。
ご主人も、奥さんが不便な生活に
耐えていることを分かっていました。
長年夢見た田舎暮らしです。
簡単に諦めたくはなかったでしょう。
それでも、腰をさすりながら
奥さんの顔を見て、静かに言いました。「大阪、帰ろか……」
大阪へ帰っても、もう元の長屋はない
ところが、ここで新しい問題が出てきました。
天神橋筋商店街近くの長屋は賃貸住宅です。
丹波篠山へ移る時に、すでに退去しています。
「大阪へ帰ろか」と言っても、
50年間暮らした元の長屋へ戻れるわけではありません。
70歳を過ぎた夫婦が、これから大阪でどこに住むのか。
賃貸住宅を探すのか。
それとも、市営住宅に申し込むのか・・。
ご主人は頭を悩ませました。
その時です。
奥さんが、何でもないことのように言いました。
「大阪に帰るんやったら、私が長年貯めた貯金で、
市内にマンション買おか!」
ご主人は驚いて奥さんの顔を見ました。
「お前、そんなに貯金しとったんか?」
すると奥さんは、さらっと答えました。
「5,000万円くらいやったら使えるで」
「そんなにあったん……」
ご主人が丹波篠山で一番驚いたのは、病院までの距離でも、
夜10時には閉まっているスーパーでもありませんでした。
50年間連れ添った奥さんが、
いつの間にか5,000万円を貯めていたことでした。

家賃1万円の古民家から、北区のタワーマンションへ
こうして老夫婦は、息子さんの力も借りながら
大阪市内で住まいを探しました。
そして購入したのは、
大阪市北区にある中古のタワーマンション。
丹波篠山の家賃1万円の家から、
大阪市北区のタワーマンションへ。
振れ幅が大きすぎます。
エレベーターがあり、建物の管理もされています。
買い物にも通院にも便利です。
年齢を重ね、車を運転しなくなっても生活しやすい場所です。
奥さんが貯めていた5,000万円は、
もともと将来、息子さんに残すつもりのお金だったようです。
しかし、現金をそのまま残す代わりに、
自分たちの老後の住まいへ使う。
そして将来、そのタワーマンションを息子さんに残す。
もちろん将来の資産価値や相続税などは
個別に考える必要がありますが、現金が不動産へ
姿を変えただけと考えれば、それも悪くない選択でしょう。
何より老夫婦が、これから安心して暮らせます。
こうして、ご主人が長年夢見た田舎暮らしは、
わずか1年半で幕を閉じました。
ご主人が手に入れたのは、
晴耕雨読の生活ではありませんでした。
畑仕事で痛めた腰。
大阪の便利さ。
そして、妻の貯金額という三つの現実でした。
残念――と思いきや、
最後は大阪市北区のタワーマンション。
まあ、これはこれでよかったんとちゃいますか。
シャンシャン。
よくあるご質問
Q.高齢になってからの田舎暮らしで注意することは?
家や土地の価格だけでなく、病院、スーパー、公共交通、
冬場の生活、ご近所付き合いなどを確認する必要があります。
車を運転できなくなった時にも生活できるかが重要です。
Q.空き家バンクの住宅は安く借りられますか?
地域や物件によっては、
非常に安い賃料で借りられる場合があります。
ただし、修繕費、草刈り、交通費、車の維持費などを
含めると、必ずしも生活費全体が安くなるとは限りません。
Q.いきなり移住しても大丈夫でしょうか?
可能であれば、元の住まいを完全に引き払う前に、
短期間のお試し移住を経験するのも一つの方法です。
旅行で訪れる田舎と、毎日生活する田舎は全く違います。
筆者の独り言
家賃1万円と聞いたら、確かに魅力的です。
けれど、家賃が安いことと、
暮らしやすいことは同じではありません。
若い時には気にならなかった病院までの距離や、
買い物の不便さが、70歳を過ぎると大きな問題になります。
それにしても、奥さん。
50年間、ご主人に気づかれず
5,000万円を貯めていたとは大したものです。
この物語で一番たくましかったのは、
丹波篠山の古民家でも、畑の野菜でもありません。
間違いなく奥さんやったと思います。
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
どんな物件買取もお任せ下さい!
若い時にはリフォームの仕事も経験済。
売主様には査定時に買取価格を算出します!
家の買取や売却のご依頼・ご相談は
ワンちゃんと古い家が大好きな白髪交じりの私・松本が全てご対応いたします!
