「あなたが勧めるんやったら、この家買うわ!」大阪のある“スーパーおばちゃん営業”の話

 

不動産会社の女性営業と聞くと、

皆さんはどんな人を想像するでしょうか。

 

スーツをビシッと着て、

タブレット片手に物件を案内するスマートな女性?

 

今回のお話は、そういう営業さんではありません。

 

年齢はもうすぐ60歳。

移動手段は、基本的に電車とママチャリ。

 

大阪弁全開。

よくしゃべる。

 

よく笑う。

そして――めちゃくちゃ泣く。

 

見た目はどこにでもいそうな大阪のおばちゃんです。

 

ところがこの人。

とんでもない営業さんでした。

 


■ 内覧が始まったら、ほぼ吉本新喜劇

 

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あるご夫婦を中古戸建へ案内したときのこと。

 

奥さんがキッチンを見ながら、

「う~ん……ちょっと狭いですね」

 

すると、おばちゃん。

 

「何作る気や?」「え?」

「毎晩フランス料理のフルコースでも作るんか?」

 

旦那さん大爆笑。

 

奥さんも、

「いや、昨日なんか焼きそばです(笑)」

「ほな十分やないか!」

 

旦那さんがまた笑う。

 

すると今度は旦那さんに、

「あんた何笑ろてんねん。料理せえへんのやろ?」

 

「しません(笑)」

「ほな黙っとき!」

 

もう物件案内なのか、新喜劇なのか分かりません。

 

ところが、このおばちゃん。

ただ面白いだけではないんです。

 

3軒、4軒と案内して、お客さんが迷い始める。

「結局どれがいいと思います?」

 

すると突然、真顔になる。

「あんたらやったら2軒目や。あれにしとき」

「なんで?」

 

「1軒目は高すぎる。3軒目は駅から遠い。

今は歩ける言うてるけどな、雨降ったら絶対文句言う」

 

「誰がですか?」

「二人ともや!」

 

また爆笑。

 

でも最後には、本当にこうなるんです。

 

「もう分かったわ。

あなたが勧めるんやったら、この家買うわ!」

 


■ 売主さんまで、知らん間に家を売っている

 

 

買主さんだけではありません。

 

この人、売主さんと話をさせても強い。

「私は3,000万円以下では売りません!」

 

そんな売主さんにも、

「ほな5,000万円で売ろか!」

「いや、それは無理でしょ」

 

「ほな1億いっとく?」

「誰が買うんですか!」

 

「せやろ!」なんの話や(笑)。

 

散々笑わせたあとで、

「ほんでな、昨日案内した家族、

この家めっちゃ気に入ってんねん」

 

「そうなんですか?」

「子どもさん二人おってな。大事に住んでくれると思うで」

 

そこから初めて価格の話をする。

 

売主さんも最初は、

「そこまでは下げられません」

と言っていたはずなのに、話しているうちに、

「……まあ、あなたが言うんやったら、

その金額で話してみよか」となる。

 

不思議です。

 

買主は知らん間に家を買っている。

売主は知らん間に家を売っている。

 

そして本人だけ、「なんでやろな?」

 

知らんのかい!


■ このおばちゃん、案内前の「根回し」が尋常じゃない

 

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ここからが、

この営業さんの本当にすごいところです。

 

普通の営業なら物件資料を確認し、

現地を確認して案内します。

 

この人はそれだけでは終わりません。

物件の周辺を歩き回ります。

 

近所の人がいたら聞く。

「すんませ~ん。この辺、夜静か?」

 

「この公園、子どもよう遊んでる?」

「この道、朝は車多い?」

 

購入を検討している家族に小さな子どもがいれば、

幼稚園の評判まで事前に調べる。

 

ネットの口コミだけではありません。

近所の人に聞くんです。

 

そして極めつけ。

派出所まで行く。

 

「すんませ~ん!」

お巡りさんもびっくりです。

 

「この辺に家買おうとしてる

お客さんおるんやけど、この辺どない?」

 

もはや不動産営業というより聞き込み捜査です。

 

だから案内中、お客さんから、

「この辺ってどうなんですか?」と聞かれると、

 

「昨日聞いてきたで!」

「誰に?」

 

「近所の人とお巡りさん!」

そこまでやるか(笑)。

 


■ 家を買わないお客さんにもプレゼントを送る

 

 

さらに、この人はすぐに

家を買ってくれないお客さんも大事にします。

 

半年探している人。

1年間決まらない人。

そんな人でも忘れません。

 

特に覚えているのが、子どもの誕生日。

「○○ちゃん、もう6歳やな!」

小さなプレゼントやカードを送る。

 

だからといって、

「そろそろ家買いませんか?」

なんて書きません。

 

また会ったときに、

 

「プレゼント届いた?」

「届きました!ありがとうございます」

 

「家買わんかったら返してや!」

「ええっ!(笑)」

 

「ウソやがな!」

そんな調子です。

 

ところが――。

お客さんから家族の事情を聞くと、

このおばちゃん、急に弱くなる。

 

「実は母親の足が悪くなってきて、

一緒に住める家を探してるんです」

 

「…………」

「どうしました?」

 

「あかん……私、そういう話あかんねん……」

もう泣いている。

 

お客さんより先に泣いている。

「お母ちゃん、大事にしたりやぁ……」

 

そして涙を拭いた5分後。

「ほな、さっきの家やめや!」

「えっ!?」

 

「階段急すぎる!お母ちゃん住まれへん!」

切り替え早っ!

 

でも、こういう人なんです。


■ もうすぐ60歳。それでもママチャリで走る!

 

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そして驚くのが、その体力。

以前見せてもらったイメージがまさにこんな感じです。

 

ママチャリで爆走。

 

もうすぐ60歳とは思えません。

「車で行った方が楽なんちゃいます?」

「いらん!混むやろ!」

 

基本は電車。そして自転車。駅から物件まで自転車。

そこから近所を自転車。次の物件へまた自転車。

 

若手営業マンの方が先にバテそうです。

 

実はこの人、仕事前に

毎朝1時間ほど歩く習慣があるそうです。

 

赤川方面から大阪城あたりまで歩いてしまうこともあるとか。

 

朝から元気。

そして会社にも誰より早く来る。

 

おそらく若い営業マンが、

「今日も頑張るぞ!」と出社した頃には、

もうおばちゃんは一仕事終わってます。


■ そして実は――約1000人の営業社員の中でNo.1

 

ここまで読めば、なんとなく分かるかもしれません。

 

このおばちゃん。

実は当時、約1000人いた営業社員の中で

トップの営業成績を残したことがあるスーパー営業なんです。

 

夜遅くまで電話しているわけではありません。

高級車でお客さんを案内するわけでもない。

 

難しい営業理論を語るわけでもない。

 

ママチャリ。大阪弁。よく笑う。すぐ泣く。

そして派出所まで聞き込みに行く。

 

それでNo.1。

 

私はこういう営業さんを見ると、

営業って結局、人なんやなと思います。


■ ところが午後5時になると……

 

 

そんなスーパー営業にも、

ひとつ変わったところがあります。

 

午後5時になったら帰るんです。

 

朝は誰より早い。

でも帰るのも誰より早い。

 

「○○さん、今日のお客さんから

電話あるかもしれませんよ」

「明日や!」

 

「メール来てますよ」

「明日返す!」

 

「ちょっと相談が……」

時計を見る。

「5時や!帰るで!」

 

夜は基本的に仕事をしません。

 

1000人の中でトップになるほどの営業なら、

夜遅くまで仕事していると思うでしょう?

 

まったく逆なんです。

 

夕方になったらママチャリに乗って、

さっさと帰ってしまう。

 

私は以前、理由を聞いたことがあります。

「なんでそんなに早く帰るん?」

 

答えは簡単でした。

「息子の晩ご飯作らなあかんねん」


■ スーパーおばちゃんには、35歳の息子がいる

 

 

息子さんは35歳。

長く家にこもっているそうです。

 

おばちゃんは笑いながら言います。

 

「息子、頼んないからなぁ。

私、この歳になっても働かなあかんねん!」

 

「営業成績がいいから、まだまだ仕事したいんちゃうの?」

「営業成績なんか、はっきり言うて興味ないわ!」

 

あれだけ売っておいて?

 

「じゃあ、お金?」

「金は欲しいで!」

そこは欲しいんかい(笑)。

 

でも、そのあとに言った言葉が、

私はこの人のすべてなんじゃないかと思いました。

 

「私な、息子が家買うと思って、

お客さんに接しとるだけや」

 

なるほど。

だから幼稚園まで調べる。

 

だから近所の人に話を聞く。

だから派出所まで行く。

 

だから子どもの誕生日を覚えている。

だから家族の話を聞いただけで泣いてしまう。

 

そして、自分の息子に勧めたくないような家なら――

お客さんにも勧めない。

 

営業テクニックでもなかった。

1000人の中で1位になるためでもなかった。

 

この人はただ、目の前のお客さんを

自分の息子や家族のように見ていたんですね。

 

だからお客さんも最後には、

「あなたが勧めるんやったら、この家買うわ!」

となるのでしょう。

 

午後5時。

今日もおばちゃんは時計を見る。

「あかん!帰るわ!」

 

「今日は何作るん?」

「知らん!スーパー行ってから考える!」

 

ママチャリに乗って帰っていく。

明日の朝になれば、また誰より早く会社に来るでしょう。

 

そして、どこかの街で近所のおばちゃんを捕まえて、

「すんませ~ん!この辺、住みやすい?」

と聞いているはずです。

 

営業成績には興味がない。

 

でも気が付いたら、誰よりも家を売っていた。

 

そんなスーパーおばちゃん営業が、

大阪にはいました。

 

私はこういう営業さんには、たぶん一生勝てません。

 

筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
  • 宅地建物取引士
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
どんな物件買取もお任せ下さい!

若い時にはリフォームの仕事も経験済。
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