「仲介では売れません!」って、“現状では売れましぇ~ん”ってことですか?この長屋、買い取ってから売るんでしょ?』

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今回の舞台は大阪市住吉区。

 

まだまだ昔ながらの長屋が残っている地域です。

 

古い長屋だからといって、住吉区なら

何でも売れないわけではありません。

 

場所や道路、建物の状態、価格にもよりますが、

弊社でも普通に仲介で売却することがあります。

 

そんな住吉区の、とある古い長屋のお話です。

 

売主さんは60歳代後半のおば(あ)ちゃん。

 

そして査定にやって来たのは、

30歳代前半の不動産会社の営業マンでした。

 

大阪市住吉区の古い長屋にやって来た30代前半の営業マン

 

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「こんにちは。

本日は査定のご依頼ありがとうございます!」

 

若い営業マン、元気よく登場です。

 

長屋の中をひと通り見て、建物の状態を確認。

 

そして売主のおば(あ)ちゃんと向かい合いました。

 

ちなみにこの営業マン、

なかなか爽やかな青年だったそうです。

 

こんな感じでしょうか。

 

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そして、いよいよ査定結果の説明です。

 

「正直に申し上げますと、この長屋を仲介で

一般のお客様に売却するのは難しいと思います」

 

おば(あ)ちゃん。

「仲介では売れへんの?」

 

「そうですね。建物も古いですし……」

「ふ~ん」

 

営業マンは続けます。

 

「ただ、弊社でしたら〇〇〇万円で

買い取らせていただくことができます」

 

ここまでは不動産の買取査定でよくある話です。

 

ところが、このおば(あ)ちゃん。

なかなか鋭かった。

 

「売れへん長屋を、なんであんたとこは買うの?」

 

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「兄ちゃん」

「はい?」

 

「これ、仲介では売れへんのやろ?」

「はい。一般のお客様に

そのまま売却するのは、かなり難しいかと……」

 

「ほんなら聞くけど」

おば(あ)ちゃん、営業マンの顔を見ます。

 

「売れへん長屋を、なんであんたとこは買うの?」

 

営業マン、一瞬止まります。

 

「いや、それはですね……

弊社で買い取ったあとにリフォームをしまして……」

「うん」

 

「きれいな状態にして再販売します」

 

おば(あ)ちゃん、即座に返します。

「ほんで売るんやろ?」

 

「……はい」

「売れるやん!」

 

出ました。

大阪のおば(あ)ちゃんの直球160キロ。

 

営業マン、たじろぎます。

 

「いや、奥さん。そういう意味ではなくてですね……。

現状の状態のままでは

一般のお客様に販売するのが難しいという意味で……」

 

おば(あ)ちゃん。

 

「それやったら兄ちゃん」

「『仲介では売れません』やのうて、

『現状では売れましぇ~ん』やろ?」

 

……確かに。

 

言葉一つで、ずいぶん意味が変わります。

 

不動産会社が長屋を買い取って再販売するのは普通の商売です

 

 

ここで少し営業マンを助けておきましょう。

 

不動産会社が安く買い取って、高く売る。

これ自体は何もおかしくありません。

 

買い取った会社はリフォーム代を負担します。

登記費用や不動産取得税などもかかります。

 

売れるまでの保有経費も必要ですし、

せっかくリフォームしても

予定していた価格で売れないことだってあります。

 

そのリスクを不動産会社が引き受けるから、

一般的に買取価格は仲介で一般のお客様へ

売却する価格より安くなるわけです。

 

ですから、この営業マンが〇〇〇万円という買取価格を

提示したこと自体がおかしいわけではありません。

 

ただし――。

「仲介では売れません」

 

ここだけは、おば(あ)ちゃんも引っ掛かったようです。

 

「あと10万円上げたら、あんたんとこに売るわ」

 

 

 

話は再び査定現場へ。

 

営業マンも負けてはいません。

買取のメリットを一生懸命説明します。

 

おば(あ)ちゃんも、

「なるほどなあ」と少し納得した様子。

 

そして改めて営業マン。

「以上を踏まえまして、

弊社の買取価格は〇〇〇万円です」

 

すると、おば(あ)ちゃん。

「あと10万円」

「えっ?」

 

「あと10万円上げて」

「いや……こちらの金額もかなり頑張っておりまして……」

 

「あと10万円増えたら、あんたんとこに売るわ」

営業マン困りました。

 

「この金額は社長から聞いている

金額ですので、私の判断では……」

 

おば(あ)ちゃん。

「ほんなら社長に言うとき!」

「え?」

 

「早よせな次の不動産屋来るで!」

「次の不動産会社……ですか?」

 

「あと3社に声かけとるから」

聞いてへんがな。

 

若手営業マン、

ここから突然時間との戦いになりました。

 

あと10万円!社長へ緊急LINEするも既読にならない

 

 

 

営業マン、スマートフォンを取り出します。

 

社長へLINE。

「あと10万円上げれば

弊社に決めていただけるそうです」

 

送信!

……。

 

既読になりません。

 

おば(あ)ちゃんが聞きます。

「まだ?」

「……まだです」

 

もう少し待つ。まだ未読。

営業マン、たまらず電話します。

 

ところが――。留守番電話。

 

おば(あ)ちゃん。

「社長、あんたの電話出えへんの?」

 

それ今言うたらアカン。

 

若手営業マンの額に、

うっすら汗が浮かんできたようです。

 

「10万円上げるなら、お前の給料10万円減らすぞ!」

 

 

 

しばらくして、

ようやく社長と連絡がつきました。

 

「社長!例の長屋なんですけど、

あと10万円上げたら決めてもらえるそうなんです!」

 

しかし社長の返事は厳しかった。

「アホ!そこがMAXや言うたやろ!」

 

「でも社長、あと10万円なんです!」

 

すると社長。

「ほんならお前の給料10万円減らして、

その分上げたろか!」

 

「…………今の金額で結構です」

 

若手営業マン、撃沈。

 

実はこの社長、営業マンを査定へ行かせる前に、

自分で長屋の外観を確認していたそうです。

 

立地、建物の状態、リフォーム費用、再販売価格。

 

さらに取得費用や税金、売れ残るリスクまで考えて、

「〇〇〇万円。ここがMAX」

 

という価格を営業マンに持たせていました。

 

ですから「たった10万円」といっても

簡単には上げられなかったわけです。

 

買取会社の査定では、最後の10万円、20万円まで

利益計算していることもあります。

 

この社長も、ちゃんと仕事をしていたのであります。

 

実はこの営業マン、学生時代は100m走の選手でした

 

 

ここでどうでもよさそうで、

どうでもよくない情報を一つ。

 

この30代前半の営業マン。

学生時代は陸上100mの選手だったそうです。

 

大阪府大会でも決勝に残ったことがあるとかないとか。

なかなかの俊足です。

 

次の不動産会社が来る。

社長とは連絡がつかない。

 

おば(あ)ちゃんからは急かされる。

こんなときこそ100m選手の出番!

 

……と思いますが、LINEの既読だけは

足が速くてもどうにもなりません。

 

ようやく査定を終え、会社へ急いで戻ろうとした営業マン。

ところがこの日、JRは倒木の影響で運転見合わせ。

 

100mを何秒で走れても、

電車が動かんかったら会社には帰られへん。

 

残念。

 

 

「仲介では売れない」と「現状では売りにくい」は同じではありません

 

 

さて、笑い話はこの辺にして、本題です。

 

弊社なら、大阪市住吉区というだけで古い長屋を見て、

「仲介では売れません」とはまず考えません。

 

もちろん、すべての長屋が

簡単に売れるという意味ではありません。

 

接道、建物の状態、連棟の状況、権利関係、

価格などによって難易度はまったく違います。

 

それでも、

「このまま買ってくれる人を一度探してみる」

という選択肢がある物件は結構あります。

 

リフォームしてからでないと

絶対に売れないとも限りません。

 

古い家を自分好みに直したい人もいます。

投資用として探している人もいます。

 

何より、古い長屋が珍しくない大阪では、

長屋そのものを理解して探している人もいます。

 

だから「買取」と「仲介」、

どちらが正解という話ではありません。

 

早く確実に現金化したいなら買取は非常に便利です。

 

一方、多少時間がかかっても高く売れる可能性を

探りたいなら、まず仲介へ出してみる方法もある。

 

売主さんがその違いを理解したうえで

選ぶことが大切だと思います。

 

そして「仲介では売れません」と言われた住吉区の長屋はどうなった?

 

 

 

さて。

 

皆さん、あのおば(あ)ちゃんが

最終的にどうしたか気になりませんか?

 

若手営業マンは頑張りました。

 

社長にも怒られました。

LINEの既読も待ちました。

 

給料10万円減額の危機まで乗り越えました。

 

100mならかなり速い。

それでも――。

おば(あ)ちゃん、その会社には売りませんでした。

 

残りの不動産会社の話もちゃんと聞いたのです。

 

そして最終的には、

別の不動産会社へ仲介で売却を依頼しました。

 

結果はどうなったのか。

……

 

売れました。

 

 

普通に仲介で売れたのです。

しかも、その成約価格。

 

最初の営業マンが提示した買取価格のおよそ2倍。

 

「仲介では売れません!」

と言われた長屋が、です。

 

もちろん、これをもって「買取価格が安すぎた」と

言いたいわけではありません。

 

先ほど書いたように、買取会社にはリフォーム費用も

必要ですし、税金や取得費、再販売費用、そして利益も必要です。

 

買取価格と仲介での成約価格は、

そもそも同じ土俵の金額ではありません。

 

ただ――。

最初の言葉だけは、

ちょっと違ったのかもしれませんね。

 

「仲介では売れません!」ではなく、

おば(あ)ちゃんの言うとおり、

「現状では売れましぇ~ん!」……いや。

 

今回の長屋の場合は、現状でも売れましたけどね(笑)。

 

不動産会社から

「この家は仲介では売れません」と言われたとき。

 

すぐに「そうなんや」と諦める前に、

一度だけ聞いてみてもいいかもしれません。

 

「ところで社長さん。

この家、買い取ったあとどうするんですか?」

 

「リフォームして売ります」……。

 

やっぱり売るんか~い!

 

筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
  • 宅地建物取引士
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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若い時にはリフォームの仕事も経験済。
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