「手取り2,000万円ないと売らへん!」不動産屋の査定を完全無視した亀子さん(仮名)の半年後
今回は、なかなか強烈な売主さんのお話です。
主人公は60歳代の女性。
仮名を**「亀子さん」**としておきましょう。
最初に言っておきますが、
決して悪い人ではありません。
ただし――
人の話をあんまり聞きません(笑)。
特に不動産屋の話は、ほぼ聞きません。
自分の主張はハッキリしています。
そして、お金の話になるとさらにハッキリします。
そんな亀子さんから、ある不動産の査定依頼を
いただいたところから、この話は始まりました。
査定価格は「1,500万円くらいですね」
現地を確認して、周辺の成約事例なども調べます。
立地、築年数、建物の状態。
いろいろ考慮して、私は亀子さんに説明しました。
「確実に売却することを考えるなら、
1,500万円あたりだと思いますよ」
すると亀子さん。
間髪入れずに言います。
「私は手取り2,000万円ないと売らへん!」
……ん?
2,000万円で売りたい、ではありません。
手取り2,000万円。
「売却価格2,000万円ということですか?」
「違う違う!」
「税金とか手数料とか全部払って、
私の手元に2,000万円残らな意味ないねん!」
なるほど。
いや……
(ホンマにがめついな……)
何社に査定を頼んでも納得しない!
もちろん弊社だけの査定では納得しません。
亀子さんは、
いろんな不動産会社へ査定を依頼しました。
ところが、どこへ聞いても亀子さんが
期待しているような数字は出てきません。
「安い!」
「そんな値段では売らへん!」
「うちの家はもっと価値ある!」
不動産会社が成約事例を説明しても、
「そんなん知らん!」
相場を説明しても、
「相場は相場、うちはうちや!」
……強い(笑)。
そもそも亀子さんにとって、
不動産会社の査定価格は「参考価格」ではありません。
自分が納得できる金額を言ってくれる
会社を探しているようにも見えます。
最終的に亀子さんは、大手不動産仲介会社へ
売却を依頼することになりました。
弊社ではありません。
まあ、それは全然かまいません。
ところが――。
売却を頼んでいない弊社に、なぜか愚痴の電話が来る
しばらくすると電話が鳴りました。
亀子さんです。
「ちょっと聞いてや!」
「はい……」
「全然売れへんねん!」
「そうですか……」
「問い合わせも少ないらしいわ!」
「売出価格はいくらですか?」
「2,080万円!」
「価格は下げたんですか?」
「下げてへん!」
……。
いや、私は別に暇ちゃうんですけど(笑)。
売却を任されているのは大手仲介会社。
それなのに、なぜか愚痴を聞くのはこっち。
不思議な関係が始まりました。
「1,800万円なら買います」という人が現れた!
しばらくして、
大手仲介会社から購入希望者が現れたそうです。
その金額――
1,800万円。
私の査定は1,500万円前後。
それを考えれば、かなりいい条件です。
普通なら、
「おお!1,800万円まで来たか!」
と前向きに検討してもおかしくありません。
ところが亀子さん。
けんもほろろに断ったらしい。
「1,800万円ですよ?」
「いらん!」
「でも査定価格より300万円高いですよ?」
「私は最初から手取り2,000万円言うてるやろ!」
買主さん、退場。
……強い。
(ホンマにがめついな……)
でも自分の不動産です。
いくらなら売るのかを決めるのは売主さん。
1,800万円で売りたくなければ、
断る自由も当然あります。
ただ私は心の中で思いました。
「亀子さん、それ結構ええ話やったと思うけどなぁ……」
「100万円下げるなら、仲介手数料も半額でええか!」
それから数か月。
売却を担当している大手仲介会社の営業マンさんも、
さすがに価格変更を提案したそうです。
現在2,080万円。
「一度、1,980万円に価格を変更しませんか?」
100万円の値下げです。
すると亀子さん。
何と言ったか。
「100万円下げるんやったら、
仲介手数料も半額でええか!」
いやいやいや(笑)。
売出価格と仲介手数料は別の話ですやん!
100万円価格を下げるから、
なぜ仲介手数料まで半額になるのか。
その理屈は私にも分かりません。
この頃になると私も、
「亀子やなくて、ガメ子みたいやな……」
と思い始めました(笑)。
もちろん、ご本人には絶対言いません。
半年経過……さすがの亀子さんにも弱気の虫?
売り出して半年ほど経った頃。
また電話がかかってきました。
「もしもし」
「あんた、本音でなんぼで売れると思う?」
おっ?
あの亀子さんが聞いてきました。
半年売れなかったことで、
さすがに少し弱気になってきたのでしょうか。
私は答えます。
「いや、だから確実に売れるのは
1,500万円あたりって、査定のとき言いましたやん」
すると亀子さん。
「そうやったっけ?」
……。
よう言うわ(笑)。
私も正直、
「そろそろ価格を考え直す時期かな」
と思っていました。
ところが――
ここから風向きが変わったんです。
なぜか内覧が増えてきた!
半年を過ぎた頃から、内覧が増えてきたらしい。
最初に聞いたとき、私はこう思いました。
「当て物にされてるんちゃうかな?」
不動産仲介では、別の物件を売るために
比較対象として見せられることもあります。
「こっちは2,080万円。それなら
こちらの1,800万円の方がお得でしょう?」
そんな比較です。
ところが今回は違いました。
本当にこの物件を気に入った人が現れた。
話が具体的になっていく。
そして――。
まさかの2,000万円で売れた!
なんと。
2,000万円で成約。
ええっ!?
私の査定、1,500万円前後。
途中で1,800万円の購入希望者が現れたのに断った。
半年間強気で粘った。
そして最終的には――
2,000万円。
亀子さん……
勝ってもうた(笑)。
「ほら見てみ!売れたやろ!」
そして当然のように電話が鳴りました。
亀子さんです。
声を聞いただけで、もう何を言うか分かります。
「ほら見てみ!売れたやろ!」
はい……。
売れましたね。
「2,000万円やで!」
はい……。
「だから言うたやろ!」
そして最後の一撃。
「不動産屋の査定なんて、ええ加減なもんや!」
ぐぬぬ……。
言い返したい。
ものすごく言い返したい(笑)。
でも実際に2,000万円で売れています。
結果だけ見れば、亀子さんの勝ち。
しかも後から聞いたところによると、大手仲介会社の
仲介手数料まで約30万円値引いてもらったらしい。
最後の最後まで取るなぁ……。
ホンマにがめつい(笑)。
でも、これが不動産売却の面白いところ
もちろん、今回の亀子さん方式を
皆さんにおすすめするつもりはありません。
1,500万円前後と査定された物件を2,080万円で売り出し、
1,800万円の購入希望者まで断って半年粘る。
そのまま売れず、結局大きく
値下げする可能性だって十分ありました。
でも不動産の価格は、最後は買いたい人と
売りたい人が合意した価格で決まります。
査定価格は未来を予言する数字ではありません。
私が1,500万円と査定しても、2,000万円で「欲しい」
という人が一人現れれば、2,000万円で成約することはある。
今回、亀子さんはそれを実際にやってしまいました。
だから最後に、
「不動産屋の査定なんてええ加減なもんや!」
と言われたら……
まあ今回は、「参りました!」
と言うしかありません(笑)。
それにしても、大手仲介会社の営業マンさん……
半年間、強気の2,080万円に付き合う。
1,800万円の買主を逃す。
価格変更を提案したら、
「100万円下げるなら仲介手数料も半額でええか!」
と言われる。
それでも内覧を続け、最後は2,000万円で成約。
そして仲介手数料まで30万円ほど値引き。
大手仲介会社の営業マンさん。
本当にお疲れさまでした。
私ですか?
亀子さんから電話がかかってきたら、
愚痴を聞くくらいならできます。
でも、この売却を半年間担当できたかと言われたら……
私なら無理やったと思います(笑)。
それにしても亀子さん。
いや――
ちょっとだけ「ガメ子」みたいやった亀子さん。
お見事でした!
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
- 宅地建物取引士
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