「生活を見られるんが嫌やねん!」内覧のたびに家族の気配を全部隠した奥さんの半年間~居住中一戸建売却の苦悩~

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その一戸建てを初めて訪問したとき、

私は思わず聞きそうになった。

 

「ほんまに、ここで生活されています?」

 

室内があまりにもきれいだったからである。

 

リビングのテーブルには何もない。

キッチンにも調味料や洗剤が見当たらない。

 

洗面所にも歯ブラシ一本置かれていない。

モデルハウスではない。

 

ご夫婦と犬一匹が、現在も暮らしている家だった。

 

奥さんは売却そのものに反対だった

 

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この家を売ることになった理由は、

住宅ローンの返済だった。

 

購入した当初は、毎月問題なく支払える計画だった。

 

しかし金利や物価の上昇で家計に余裕がなくなり、

住宅ローンの負担が徐々に重くなっていった。

 

幸い、今なら住宅ローンの残高を

上回る金額で売却できそうだった。

 

返済が本当に苦しくなってから慌てるより、

まだ売れるうちに売り、次は賃貸住宅で暮らそう。

 

ご主人はそう考えた。

 

しかし奥さんは、住んだまま

家を売りに出すことに強く反対した。

 

「知らん人が、しょっちゅう家に来るんやで」

 

「まあ、内覧してもらわんと売れへんからな」

 

「リビングだけちゃうねんで。

台所も洗面所も寝室も、部屋中見倒すんやで」

 

確かに、居住中の物件を売るとなれば、

購入希望者が室内を見学する。

 

収納の中まで勝手に開けることはないにしても、

浴室、トイレ、寝室など、家族以外には

見られたくない場所も案内しなければならない。

 

超が付くほどきれい好きな奥さんにとって、

それは売却以上の一大事だった。

 

家は見せる。でも生活は見せへん!

 

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話し合いの結果、家は売りに出すことになった。

 

ただし奥さんは、一つの方針を決めた。

「家は見せるけど、生活は絶対に見せへん」

 

最初の内覧予約が入ると、

奥さんは朝から片付けを始めた。

 

テーブルの上のティッシュ箱を収納へ。

テレビのリモコンも引き出しへ。

 

キッチンの炊飯器、トースター、

調味料、食器用洗剤も全部隠す。

 

洗面所の歯ブラシ、ドライヤー、

洗濯洗剤も見えない場所へ移動。

 

玄関の靴も家族が履く分を除いて片付けた。

 

家族写真も外す。

冷蔵庫に貼ってあった予定表も外す。

 

犬のケージ、餌入れ、トイレシート、リードまで全部隠す。

 

そして内覧時間が近づくと、

奥さんは犬を連れて散歩へ出かけた。

 

家から、人と犬が暮らしている証拠がほぼ消えた。

 

 

内覧客より、家族のほうが困っていた

 

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最初の内覧は無事に終わった。

 

購入希望者からは、

「すごくきれいに使われていますね」

と褒めてもらった。

 

奥さんも少しうれしそうだった。

 

しかし内覧客が帰ったあと、

ご主人がテレビをつけようとして手を止めた。

「リモコン、どこ?」

「引き出し」

 

「どの引き出し?」

「どこやったかな……」

 

次の朝には炊飯器が見つからなかった。

 

ある日は、ご主人が出勤前に

歯ブラシを探して洗面所と寝室を往復した。

 

犬も、自分のケージが

突然消えることに納得していない。

 

内覧予定日の朝になると、

奥さんがリードを持つ前から落ち着かなくなった。

 

「また散歩やと思ってるんかな?」

「自分の家を売られてるとは思ってへんやろな」

 

人間にも犬にも、少し不便な販売活動が始まった。

 

きれい過ぎる家が、なぜか決まらない

 

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室内はきれい。

 

住宅ローンの残高以上で売れる価格に設定し、

立地も特別悪いわけではない。

 

それでも家は、なかなか売れなかった。

内覧には来てもらえる。

 

しかし、「もう少しほかも見てから考えます」

で終わる。

 

家が悪いというより、決め手がない。

 

あまりにも生活感がないため、内覧客が

自分たちの暮らしを想像しにくかったのかもしれない。

 

ソファはある。

でも普段どこでくつろいでいるのか分からない。

 

キッチンはきれい。

でも、この家で料理をしている様子が浮かばない。

 

犬まで完全に隠されているので、ペットと暮らしても

これほどきれいに保てる家だとは誰も知らなかった。

 

もちろん、物が少なく室内が整っていることは

販売上の大きな長所である。

 

ただ、モデルハウスにはモデルハウスの良さがあり、

人が暮らしている家には、

人が暮らしている家なりの温かさがある。

 

奥さんは前者を完璧に目指し過ぎたのかもしれない。

 

1カ月、2カ月……少しずつ何かが戻ってきた

 

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売り出して1カ月。

相変わらず、内覧前にはすべてが片付けられた。

 

2カ月目。

テレビのリモコンだけが、

テーブルの端に残るようになった。

 

3カ月目。

洗面所に歯ブラシが一本出ていた。

 

4カ月目。

キッチンの隅に、醤油と食器用洗剤が残った。

 

5カ月目。

玄関に犬のリードが掛かったままになった。

 

ご主人が言った。

「最近、ちょっと生活が戻ってきたな」

「毎回全部隠すん、疲れてきてん」

 

奥さんの完璧な販売準備に、

少しずつ人間らしさが混ざり始めた。

 

そして6カ月目。

内覧当日、犬が散歩へ行きたがらなかった。

 

奥さんはしばらく犬と見つめ合い、

静かに言った。「……今日は、もうええか」

 

半年間、家族の生活と一緒に隠され続けた犬が、

初めて内覧へ参加した。

 

犬が出てきても、まだ売れなかった

 

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ここで犬好きの家族が現れ、

その日のうちに購入を決めた。

 

そんな結末なら、きれいな物語になる。

 

しかし現実は、それほど都合よく進まない。

 

犬が内覧へ参加した日も、

購入申し込みは入らなかった。

 

最初の不動産会社との媒介契約が終わったあと、

ご夫婦は別の会社へ売却を任せたようである。

 

売出価格を変更したのか。写真を撮り直したのか。

今はどのくらい内覧があるのか。

 

詳しいことは分からない。

 

ただ、家は今も売れていないらしい。

 

住宅ローンの返済は続き、奥さんは知らない人が

家中を見る生活から、まだ解放されていない。

 

次の内覧でも、きっと奥さんは

家族の気配をきれいに隠すのだろう。

 

炊飯器も、歯ブラシも、テレビのリモコンも。

 

そして、散歩へ行ってくれるなら犬も。

 

居住中の家を売るときのQ&A

 

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Q1.生活用品は全部隠したほうが売れやすいですか?

 

物が少なく整理された家は、広く清潔に見えます。

ただし毎日の生活に支障が出るほど隠す必要はありません。

 

床やテーブルの上をすっきりさせ、

水回りを清潔にするだけでも印象は変わります。

 

Q2.寝室や浴室も内覧で見せなければなりませんか?

 

買主にとっては、どの部屋も購入判断に必要です。

 

見られたくない物は収納や箱へ移し、

貴重品や個人情報が分かる書類は必ず別の場所で保管しましょう。

 

Q3.半年売れなければ不動産会社を変えるべきですか?

 

会社を変える前に、問い合わせ数、内覧後の感想、

広告の内容、売出価格が相場に合っているかを確認しましょう。

 

原因が価格なら、会社だけ変えても

同じ結果になる可能性があります。

 

奥さん、頑張ってね。

 

ただ、リモコンをどこへ隠したかだけは、

忘れんようにしてください。

 

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筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
  • 宅地建物取引士
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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