『ボヤを出したあの長屋を救ってくれた一枚の貼紙…。』 家を売るって最後までわからんもんやわ。【後編】

「貼紙を見たんですが…」一本の電話から、すべてが動き出す

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携帯電話の向こうから聞こえてきたのは、

少し緊張した女性の声でした。

 

「あの……貼紙を見たんですが。」

「はい。」

 

「実は、その家の相続人なんです。」

 

思わず顔を見合わせました。

「ほんまに連絡きたやん。」

 

心の中でそう思ったのを覚えています。

 

女性は少し申し訳なさそうに話し始めました。

「実は……あの家、ずっと気にはなってたんです。」

 

「相続もせなあかん思うてたし、

いつか片付けなあかんとも思ってました。」

 

「でも……。」

 

その『でも』のあとが、なかなか続きません。

 

しばらく沈黙が流れてから、

小さな声でこう言われました。

 

「行きづらかったんです。」

 

その一言で、

十五年間という時間の重みが伝わってきました。

 

「近所の人に会うたら気まずいし……。」

 

「あの家を見ると、

あの日のこと思い出してしまうし……。」

 

だから気になりながらも、

ずっと足が向かなかったそうです。

 

でも、お姉さんが見つけた一枚の貼紙が、

その止まっていた時間を動かしました。

 

「ほんなら、一回お会いしましょう。」

 

そこから話は、一気に前へ進み始めました。

 

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「兄ちゃん、こんな家100万円にもならへんやろ?」

 

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事務所で初めてお会いしたおばちゃんは、

とても明るい方でした。

 

「兄ちゃん、正直に言うてええで。」

 

「こんな家、100万円くらいやろ?」

 

私は笑いながら答えました。

 

「いや、おばちゃん。」

「まだ分かりませんよ。」

 

「えぇ~(笑)」

「ボヤも出してるし。」

 

「十五年も空き家やし。」

「古い長屋やで?」

 

「そんな家、誰が買うねん。」

 

そう言って笑うおばちゃん。

 

でも私は、

もう一つ気になっていたことがありました。

 

「隣の家も、一緒に売れるんです。」

 

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その言葉を聞いた瞬間、

おばちゃんの表情が変わりました。

 

「えっ?」

「隣も?」

 

「はい。」

「二軒まとめてなら、土地として活用できます。」

 

「それなら、話は全然変わります。」


思いもよらない査定額

 

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後日、査定結果をご説明しました。

 

おばちゃんは腕を組んで、

「どうや?」

「やっぱり100万円くらい?」

 

そう笑っています。

 

私は査定書をお渡ししました。

 

おばちゃんは数字を見て、

しばらく黙ったまま。

「……。」

「……。」

 

「兄ちゃん。」

「これ、見間違いやない?」

 

「大丈夫です。」

「えっ……。」

 

「ほんまに?」

「はい。」

 

隣の長屋と一緒に活用できる土地として評価されたことで、

想像を大きく超える価格をご提示できたのです。

 

「そんなことあるんや……。」

 

何度も査定書を見返しながら、

おばちゃんは笑っていました。

 

「十五年間、悩んでたん何やったんやろ(笑)。」


「もっと早よ相談したらよかったわ。」

 

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売却は驚くほどスムーズに進みました。

 

建売会社の担当者も、

「二軒一緒だからこそ、この土地は活用できます。」

と話していました。

 

もし片方だけなら、

ここまでの条件にはならなかったかもしれません。

 

長屋は「建物」ではなく、「どう活用できるか」で

価値が変わることがあります。

 

おばちゃんは契約書にサインをしながら、

 

「兄ちゃん。」

「もっと早よ相談したらよかったわ。」

と笑いました。

 

十五年間、自分の中だけで「売れへん」と決めつけていた。

 

でも現実は違いました。


「兄ちゃん、LINEやっとる?」

 

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引き渡しの日。

 

すべての手続きが終わり、

おばちゃんが帰ろうとした時でした。

 

「兄ちゃん。」

「はい?」

 

「LINEやっとる?」

「やってますよ。」

 

「ほんなら交換しよ。」

「はい(笑)。」

 

交換が終わると、おばちゃんが一言。

 

「ツムツムやっとる?」

「えっ?」

 

「やってますけど(笑)。」

「ほな今日からハート送ったるわ!」

 

事務所中、大笑いでした。

 

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あれから今日まで

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あれから年月が経ちました。

 

今でも、ときどきスマートフォンを見ると、

おばちゃんからツムツムのハートが届いています。

 

そのたびに、この長屋のことを思い出します。

 

ボヤを出した家。

十五年間止まっていた時間。

 

一枚の貼紙。

そして一本の電話。

 

どれか一つ欠けていたら、

このご縁は生まれませんでした。

 

家は売って終わりかもしれません。

 

でも、人とのご縁は終わりません。

今日もまた、おばちゃんからハートが一つ届きました。

 

「兄ちゃん、ちゃんと受け取っときや(笑)。」

その通知を見るたびに思います。

 

家を売るって、最後までほんまにわからんもんやわ。


今回の学び

 

長屋は単独より隣地と一緒に売却した方が

価値が高まるケースがあります。

 

「売れない」と思っている物件でも、

活用方法によって評価は変わります。

 

相続や空き家は、一人で悩み続けるよりも、

まず相談することが解決への第一歩です。

 

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筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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若い時にはリフォームの仕事も経験済。
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