『売れたと思って寿司食べに行ったのに・・・。大阪のおっちゃんの悲しい話【前編】』 ~不動産売却で本当にあったような話。契約してから1カ月は天国でした編~
不動産屋を長くやっていると色んな売主さんに出会う。
相続した家を売る人。
住み替えで売る人。
離婚で売る人。
転勤で売る人。
そして、「もう管理できへんから売るわ」
という人。
理由は様々である。
しかしどんな売主さんにも
共通していることが一つだけある。
それは、家が売れたら嬉しい。
当たり前の話である。
ところが不動産売買というのは時々意地悪をする。
今日はそんなお話である。
主人公は大阪市内に住む60代の山田さん(仮名)。
もちろん仮名である。
しかし全国のどこかに、いや大阪だけでも
何人か同じ経験をした山田さんがおると思う(笑)。
山田さんが売却することになったのは
親から相続した実家だった。
空家になって数年。
毎年固定資産税は来る。
庭の雑草は伸びる。
台風が来たら気になる。
近所からも「最近誰も住んでへんね」
と言われる。
空家というのは持っているだけで
案外大変なのである。
しかも今回の家は、正直な話、
飛ぶように売れるタイプの家ではなかった。
築年数は古い。
車庫もない。
最近流行りのリフォーム済物件でもない。
不動産ポータルサイトを見れば、
「〇年〇月リフォーム済!」
「即入居可能!」
「南向き!」
みたいな物件がズラリと並んでいる。
そんな中で山田さんの家は、良く言えば昔ながら。
悪く言えばそのまま。
そんな家だった。
だから山田さん自身も覚悟していた。
「まぁ半年くらいかな」
いや、
「下手したら一年かもな」
くらいに思っていた。
ところが人生というのは分からない。
販売開始からわずか一週間後。
昼ご飯を食べ終わり、
テレビでワイドショーを見ながら
ウトウトしていた時だった。
携帯電話が鳴った。
仲介会社からだった。
その瞬間、山田さんはあまり期待していなかった。
案内の結果かもしれない。
価格相談かもしれない。
そんな程度である。
ところが電話の向こうの営業マンの声が妙に元気だった。
人間というのは不思議なもので、
良い話の時と悪い話の時では声が違う。
悪い話の時は最初に世間話をする。
良い話の時はすぐ本題に入る。
不動産屋も同じである。
「山田さん!」
この時点でテンションが高い。
「はい?」
「申込み入りました!」
山田さんは一瞬意味が分からなかった。
申込み?
あの家に?
まだ一週間やで?
そんな気持ちだった。
思わず聞き返した。
「ホンマか?」
営業マンも嬉しそうだった。
「ホンマです!」
さらに続ける。
「しかも満額です!」
ここで山田さんは立ち上がった。
いや、本当に立ち上がったらしい。
人間というのは嬉しい時ほど落ち着きがなくなる。
特に行く場所もないのに歩く。
冷蔵庫を開ける。窓を開ける。また閉める。
山田さんも電話を切った後、
意味もなくリビングを何周もしたそうである。
そして台所へ向かった。
奥さんが晩ご飯の準備をしていた。
「売れたで」
山田さんは言った。
すると奥さんは包丁を動かしたまま、
「そうなん」
と言った。
反応が薄い。
いや、薄すぎる。
こっちは人生の一大イベントである。
それなのに玉ねぎを切りながら返事をしただけだった。
「満額やで」
山田さんはもう一度言った。
「良かったやん」
奥さんはそう言った。
しかし山田さんが欲しかったのはそんな反応ではない。
「ええっ!?」
とか、
「すごいやん!」
とか、
「今日はお祝いせなあかん!」
とか、
そういうやつである。
しかし夫婦生活三十年以上。
現実はこんなものである(笑)。
しかし山田さんは浮かれていた。
そりゃそうである。
半年かかると思っていた家が一週間で売れたのである。
正確にはまだ売れていない。
申込みが入っただけである。
しかしその時の山田さんにそんな区別はなかった。
売れた。終わった。
成功や。
頭の中はそれだけだった。
その日の夜。
姫路に住む弟へ電話した。
「売れたで」
弟も驚いた。
「早かったな」
すると山田さんは少し誇らしげに言った。
「一週間や」
この時はまだ事実だった。
ところが人間というのは面白い。
同じ話を何度もすると少しずつ話が大きくなる。
翌日、昔の同僚へ話した時には五日になった。
ゴルフ仲間へ話した時には三日になった。
飲み会では、
「出した瞬間や!」
になっていた。
大阪のおっちゃんの話というのは、
だいたいこうやって成長するのである(笑)。
しかし山田さんはまだ知らなかった。
この話が後で自分の首を絞めることになるとは。
数日後。
契約の日がやって来た。
契約は実に順調だった。
買主さんは若いご夫婦。
礼儀正しい。
感じも良い。
子供も可愛い。
山田さんは安心した。
「ええ人に買うてもろたな」
そう思った。
契約書にサインする。
印鑑を押す。
重要事項説明を受ける。
手付金も受け取る。
全て順調だった。
営業マンもちゃんと説明していた。
住宅ローン特約の説明もしていた。
もし住宅ローンが通らなければ白紙解約になること。
その場合は手付金を返還すること。
契約そのものが無かったことになること。
ちゃんと説明していた。
しかし山田さんは聞いていなかった。
なぜか。
寿司のことを考えていたからである(笑)。
契約が終わった帰り道。
山田さんは奥さんへ電話した。
「今日は寿司や」
すると奥さんが言う。
「何のお祝い?」
山田さんは少しイラッとした。
「何のお祝いって売れたんや!」
すると奥さんは冷静だった。
「まだお金入ってへんやん」
実に鋭い。
しかし山田さんは聞いていない。
「細かいことはええねん!」
そう言って電話を切った。
その夜。
山田家は寿司屋にいた。
普段なら絶対に入らない少し高級な店だった。
息子が聞く。
「ホンマにええの?」
山田さんは胸を張る。
「今日はええねん」
娘も聞く。
「ウニ頼んでええ?」
「今日はええねん」
奥さんも言う。
「日本酒飲もうかな」
「今日はええねん」
その日だけで十回以上言った気がする。
普段の山田さんは堅実派である。
スーパーへ行けば値引きシールを探す。
ガソリンも安い日を狙う。
そんな人が大トロを注文している。
完全に浮かれているのである。
寿司を食べながら山田さんはご機嫌だった。
「やっぱり大阪市内やからかな」
「立地やろな」
「売れる時は売れるもんやな」
誰も聞いていないのによく喋る。
家族は適当に相槌を打っていた。
しかし奥さんだけは一度だけ言った。
「まだ終わってへんのちゃう?」
山田さんは笑った。
「終わった終わった!」
そう言いながら大トロを口に入れた。
しかし山田さんはまだ知らない。
この大トロが、
後に人生で一番高い大トロになることを・・・。
【後編へ続く】
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
どんな物件買取もお任せ下さい!
若い時にはリフォームの仕事も経験済。
売主様には査定時に買取価格を算出します!
家の買取や売却のご依頼・ご相談は
ワンちゃんと古い家が大好きな白髪交じりの私・松本が全てご対応いたします!
