『社長!ええ物件持ってきました!不動産業者にしか家を売らない営業Aのお話』
不動産仲介の営業マンにも、
いろんなタイプがいます。
一般のお客さんに一生懸命物件を紹介する営業マン。
土曜日も日曜日も案内して、住宅ローンの相談に乗って、
値段交渉をして、ようやく契約。
それとは別に――。
「一般のお客さんに売るん、時間かかるやん。
不動産屋に買ってもろたら早いやん!」
そんな営業マンもおります。
今回の主人公は、完全に後者です。
売却物件が入る。
すると、いつもの不動産屋さんへ電話一本。
「社長~!また、ええ物件入りましたで!」
広告を出す必要なし。
土日に何組も案内する必要なし。
住宅ローンが通るか心配する必要なし。
契約してから、
「やっぱりこの家、日当たりが……」
なんて言われる心配もありません。
不動産屋に売る。
まあ、楽ですわな。
大阪の不動産屋は、とにかく物件情報が欲しい
大阪には大小さまざまな不動産会社があります。
大手仲介会社もあれば、地域で何十年も
営業している小さな不動産屋さんもある。
今回登場するのは、
そんな昔ながらの不動産会社です。
社長は68歳。
長年、不動産業をやってきたおじいさんです。
この会社にも一つ悩みがありました。
仕入れ情報が少ない。
買取再販業者は、
物件を買わなければ仕事が始まりません。
買って、リフォームして、再び売る。
だから多少高いと思っても、
「今回はやめとくわ」
と簡単には言えないことがあります。
なぜなら、
「あの会社、値段出えへんから、
もう情報持っていかんとこ」
これが怖いからです。
今回の68歳社長も同じでした。
そして、そんな社長のところへ頻繁に
物件情報を持ってくるのが、例の営業マンでした。
「他社が2,000万円。2,080万円なら買えますわ!」
ある物件が売りに出ました。
営業マンは何社かの買取業者へ声を掛けます。
実際のところ、
業者が出せる価格は高くても1,800万円前後。
ところが、68歳社長への話は違います。
「社長!この物件、
他社さんから2,000万円入ってますねん」
そして続けます。
「2,080万円やったら買えると思いますわ!」
社長も思います。
「高いなぁ……」
しかし断れば、次から情報を持ってきて
もらえなくなるかもしれない。
営業マンも、
「社長、今はこれくらい出さんと買えませんよ!」
「また次、ええ物件入ったら一番に持ってきますから!」
そう言います。
この、「また次、ええ物件」が効くんです。
社長、
「ほな……2,080万円でいこか」
営業マン、成約。
売主さんには高く売ったと喜ばれる。
会社から見ても高値成約。
そして営業マン自身も数字が上がる。
みんな喜んでいるように見えます。
ただ一人を除いて。
2,080万円で買った68歳社長です。
買った後が、これまた大変

数年前なら多少高く仕入れても、
「リフォームして売ったら何とかなるやろ」
そんな物件もありました。
ところが今は、リフォーム費用も高い。
水回りを替える。クロスを替える。
床を替える。外壁も手を入れる。
あっという間に数百万円です。
ようやくリフォームが完成。
仕入れ2,080万円。
そこへリフォーム費用、取得費用、
登記費用、税金、金利などを乗せる。
当然、利益も必要です。
「これくらいで売らな合わんな……」
そう思ってレインズへ登録する。
ところが――。売れへん。
1か月。
2か月。
価格を下げる。
それでも反響が弱い。
そして68歳社長が、
仕入れを持ってきた営業マンに言います。
「○○君、これ再販も頼むわ」
すると営業マン。
「社長、この価格やったらちょっとウチでは……」
……。
ちょっと待て。
あんたが2,080万円で買わせたんちゃうんかい!
入口では、「社長!これくらい出さんと買えません!」
出口では、「社長!その値段では売りにくいです!」
なかなか便利な商売です(笑)。
それでも68歳社長は買い続けた
「そんな営業から買わんかったらええやん」
一般の方なら、そう思うでしょう。
しかし不動産屋には、不動産屋の怖さがあります。
情報が止まることです。
今回だけ高い。
次はええ物件かもしれない。
その次こそ利益の出る物件かもしれない。
そう思って付き合いを続ける。
ところが次も高い。また次も高い。
それでも会社自体は普通に回っていました。
なぜか?
この不動産会社には、昔から所有している
賃貸収益物件があったからです。
毎月、家賃が入ってくる。
だから会社も維持できる。
68歳社長の給料も出る。
そのため、買取再販部門がどれくらい儲かっているのか、
長い間それほど細かく検証されていませんでした。
ところが――。
ここへ一人の男が帰ってきます。
「おやじ、こんな物件2,000万円超えなんかあり得へんやろ」
39歳。
68歳社長の息子です。
しかし、
よくある二代目のボンボンではありません。
大学を出てすぐ親父の会社へ入ったわけでもない。
外の仲介会社で10年間修行してきました。
社員は約100人。
その中で売上成績は、いつもトップ5あたり。
バリバリの仲介営業マンです。
そして実家の不動産会社へ戻って間もない頃。
例の営業マンが、
また物件を持ってきました。
「社長!これ、他社が2,000万円で――」
いつものパターンです。
68歳社長も、
「ほな2,080万円くらいか……」
そこへ息子が資料を見ます。
場所。土地面積。建物。築年数。
道路。周辺の成約事例。
しばらく見てから、親父に言いました。
「おやじ、こんな物件
2,000万円超えなんかあり得へんやろ」
親父、「いや、○○君が他社から
2,000万円で買付が入ってる言うねん」
息子、「ちょっと待って」
再販価格を調べる。リフォーム費用を考える。
取得諸経費を入れる。
どう計算しても合いません。
「これ、2,080万円で買うて、
なんぼで売るつもりなん?」
親父、「……」「リフォーム代は?」「……」
「利益どこにあんねん?」
ここで、39歳の息子のスイッチが入りました。
「おやじ、過去3年間の仕入れ全部見せて」
息子は今回の一件だけでは終わりませんでした。
過去3年間。
仕入れた物件を全部確認します。
仕入価格。リフォーム費。
取得諸経費。再販価格。値下げした価格。
そして最後に会社へ残った利益。
電卓を叩く。
次の物件。また計算する。
さらに次。
息子が気づきます。
「……ほとんど儲かってへんやん」
物件は動いています。
売上も立っています。
忙しくもしています。
ところが利益が残っていない。
会社が成り立っていた大きな理由は、
昔から持っている賃貸物件の家賃収入。
息子からすれば、
「おやじ、買取再販で稼いで給料出てるんちゃうで。
昔買うた収益物件に食わせてもろてるやん」
となります。
ただ、息子も仲介営業を10年間経験しています。
親父がなぜ高いと分かっていて買っていたのか。
それも分かりました。
「おやじ……
情報持ってこんようになるんが怖かったんやろ?」
「まあな……」
この世界にいた息子だからこそ、そこは理解できます。
しかし――。
だから何でも高く買わせていい、
という話ではありません。
とうとう二代目が営業マンに言った

再び営業マンが物件を持ってきました。
これまでなら、
「社長!これ○○万円なら買えます!」
で話が進みます。
しかし今度は39歳の息子がいます。
息子は営業マンに聞きました。
「これ、再販なんぼで売れると思ってんの?」
営業マンが答える。
息子はリフォーム代と諸経費を計算する。
やっぱり合わない。
そして――。
「あんた、物件紹介するんやったら再販でいくらで
売れるんか出してから持ってくるんが仲介会社ちゃうんか?」
営業マン、黙ります。
息子は続けます。
「うちの親父も悪いけど……えらい値段で買わせとんな!」
さらに営業マンが、
「いや、でも売主さんとしては少しでも高く……」
なんて言おうものなら、
「そこまで高く売りたいんやったら
一般のお客さんに売ったらええやん」
ごもっとも。
一般のお客さんに売るのは面倒。
だから不動産業者へ持っていく。
でも、その業者にはギリギリまで高く買わせる。
そして高く仕入れさせた物件の再販は、
「その価格ではちょっと……」と言って取らない。
仲介会社で10年間。
100人の営業マンの中で常にトップクラスだった
39歳の息子には、そのカラクリが全部見えてしまいました。
営業マンの「楽園」は終わった
今の買取再販は簡単ではありません。
仕入れ値は高い。
リフォーム代も高い。
そして完成した物件をレインズへ出したからといって、
希望価格ですぐ売れるとは限らない。
だからこそ、
「買える金額」ではなく「売って利益が残る金額」
を考えなければならない。
68歳社長も、
それが分かっていなかったわけではないでしょう。
ただ、「情報を止められたくない」
その気持ちが強かった。
そして営業マンも、それを知っていた。
長年、何を持っていっても
頑張って買ってくれた68歳社長。
営業マンにとって、
これほどありがたい取引先はなかったと思います。
ところが、その会社に二代目が帰ってきました。
しかも――。
よりによって、仲介営業をメチャクチャ知ってる二代目が。
一般のお客さんへの案内もいらない。
住宅ローンの心配もいらない。
物件を持っていけば、少々高くても買ってくれる。
そんな営業マンの「楽な売り先」。
どうやら――この営業Aの
楽できる時代は終わったようです。
いや、また別の不動産業者に『社長~』って
まわっているのでしょう・・・ね。
そしてこの2代目社長はインスタ中心に
直接仕入れができる仕組みに変えていくのでした。
終わり。
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
- 宅地建物取引士
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