『80歳代の親が子供の近くに引っ越す予定だが・・【前編】』ここ日本か!?80代夫婦が大阪・島之内で受けたカルチャーショック
はじめに
「お父さん、もう大阪に来たらどうや?」
その一言から始まった。
京都府北部、天橋立近くの小さな町。
海がある。
山がある。
春になれば桜が咲き、冬になれば日本海の風が吹く。
近所の人はみんな顔見知り。
スーパーへ行けば誰かに会う。
病院へ行けば先生も看護師も名前を知っている。
そんな町で暮らしてきた80代夫婦。
決して裕福ではない。
しかし不自由もない。
二人とも健康だった。
少なくとも数年前までは。
ところが80歳を超えた頃から少しずつ変化が現れ始めた。
おじいちゃんは膝が痛い。
おばあちゃんは血圧の薬が増えた。
友人たちも少しずつ施設へ入ったり、
亡くなったりしている。
そして子供たちが心配し始めた。
「もし夜中に倒れたらどうするん?」
「救急車来るまで時間かかるやろ?」
「俺ら大阪やからすぐ行かれへんで」
確かにその通りだった。
天橋立の暮らしは最高。でも不安もある
ある日の夕方。
二人は海沿いを散歩していた。
「今日はええ天気やな」
「海も穏やかや」
おじいちゃんはそう言いながら空を見上げた。
都会にはない広い空。
夕焼けに染まる海。
遠くには漁船。
これが当たり前の景色だった。
だが最近は少し違う。
散歩中もこんな会話が増えた。
「もしワシが先に倒れたらどうする?」
「嫌なこと言わんといて」
「いや現実問題や」
「・・・」
若い頃には笑い飛ばしていた話題が
現実味を帯びてきていた。
実際、近所の同級生も去年脳梗塞で倒れた。
隣町の知人も施設へ入った。
80代とはそういう年齢なのだ。
子供たちの作戦会議
長男は大阪市中央区島之内。
長女は大阪市北区鶴野町。
兄妹は定期的に連絡を取り合っていた。
ある日。
長男が切り出した。
「もう親呼ぼうや」
長女も同意した。
「私もそう思う」
「何かあってからじゃ遅い」
すると長男。
「島之内やったら中古マンション買うわ」
「近くに住んでもらったら安心や」
長女は負けじと答える。
「いやいや梅田の方が便利やって」
「賃貸借りたるから」
兄妹の親孝行対決が始まった。
数日後。
二人は実家へ帰省した。
そして家族会議。
「大阪来いへん?」
おじいちゃん。
「急に言われてもな」
おばあちゃん。
「わたし大阪なんて観光しか行ったことないで」
長女。
「だから一回見に来たらええやん」
長男。
「ホテル代出すから」
おじいちゃん。
「ほな行くだけ行ってみるか」
こうして大阪視察ツアーが決定した。
島之内到着。おじいちゃん固まる
大阪到着。
新大阪から地下鉄に乗る。
その時点でおじいちゃんは疲れていた。
「乗り換え多すぎるやろ」
「迷路やん」
ようやく島之内近くのホテルへ到着。
荷物を置いて散歩に出る。
すると。
開始3分でおじいちゃんが止まった。
「・・・」
「どうしたん?」
「ここ日本か?」
おばあちゃんも周囲を見回す。
確かに人が多い。
観光客も多い。
聞こえてくる言葉も様々だ。
「なんか海外旅行来たみたいやな」
おばあちゃんが笑う。
しかしおじいちゃんは真顔だった。
「ワシら日本人より外国人の方が多い気がする」
息子の説明
息子は慣れた様子だった。
「お父さん、ここ観光地近いからな」
「色んな国から来るんや」
おじいちゃん。
「ワシ完全にアウェーやん」
息子。
「何の試合やねん」
おばあちゃん。
「ワールドカップちゃう?」
するとおじいちゃん。
「せやな」
「日本代表一人で戦ってる気分や」
息子爆笑。
タワーマンションを初めて見る
翌日。
長男が検討している中古マンションを見学。
エントランスへ入った瞬間。
おじいちゃんが立ち止まった。
「なんやこれ」
「ホテルか?」
「いやマンションや」
「嘘つけ」
本気で信じていなかった。
オートロック。
宅配ボックス。
ラウンジ。
管理人。
全てが未知の世界。
「ここ城やん」
「殿様住んでるんか」
長男。
「普通のマンションや」
おじいちゃん。
「大阪怖い」
エレベーターが速すぎる
20階へ向かう。
ドアが閉まる。
上昇。
おじいちゃん。
「おおおおお」
おばあちゃん。
「耳痛い」
長男。
「大げさやな」
おじいちゃん。
「ジェットコースターや」
そして到着。
景色を見る。
確かに綺麗だった。
大阪の街が一望できる。
「あれ京セラドームか?」
「違う」
「ほな大阪城か?」
「もっと違う」
方向感覚が完全に失われていた。

夜のなんばへ
夕方。
息子が案内した。
「せっかくやからなんば行こう」
おじいちゃん。
「近いんか?」
「歩いて行ける」
歩く。
歩く。
歩く。
人。
人。
人。
おじいちゃん。
「祭りか?」
息子。
「平日や」
おじいちゃん。
「嘘やろ」
道頓堀到着。
グリコ。
ネオン。
観光客。
歓声。
写真撮影。
全てが別世界だった。
おばあちゃん。
「すごいなぁ」
おじいちゃん。
「ワシここ住むん?」
息子。
「候補な」
おじいちゃん。
「無理や」
即答だった。
コンビニで事件発生
夜。
ホテル近くのコンビニへ。
おじいちゃんが牛乳を買う。
レジへ行く。
店員が外国人スタッフ。
笑顔で対応してくれる。
何の問題もない。
しかし帰り道。
おじいちゃん。
「ワシ緊張した」
おばあちゃん。
「なんでや」
「英語で話しかけられたらどうしよう思って」
「日本語やったやん」
「結果論や」
おばあちゃん大爆笑。
そして二日目の夜
ホテルの窓から街を見る。
ネオンが輝いている。
車が走る。
人が歩く。
深夜になっても町は眠らない。
おじいちゃんがぽつりと言った。
「便利なんは分かる」
「病院も近い」
「買い物も近い」
「息子も近い」
「でもな・・・」
おばあちゃん。
「何?」
「空が狭いな」
その言葉におばあちゃんも黙った。
確かにそうだった。
天橋立ではどこを見ても空があった。
海があった。
山があった。
しかしここではビルが先に目に入る。
それが良い悪いではない。
ただ違うのだ。
人生のほとんどを地方で過ごした二人にとって。

しかし本当のカルチャーショックはまだ始まっていなかった
翌朝。
長女から電話が入る。
「そっちはどうやった?」
おばあちゃん。
「すごいわ」
おじいちゃん。
「異世界や」
長女は笑った。
「ほな次は梅田や」
「もっと驚くで」
おじいちゃん。
「まだ上があるんか?」
長女。
「ある」
「めちゃくちゃある」
電話を切った後。
おじいちゃんは少し不安そうな顔をした。
「島之内でこれやろ・・・」
「梅田ってどないなっとるんや・・・」
おばあちゃん。
「覚悟しとき」
こうして二人は大阪北区へ向かうことになる。
しかしその先で待っていたのは、
さらに想像を超える光景だった。
そしておじいちゃんは後にこう語ることになる。
「なんばがアジア予選なら・・・」
「梅田はチャンピオンズリーグやった」

【後編へ続く】
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
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