【不動産の神様は見ている!?】15年前の勘定を合わせに来た、ある不動産屋の話
福岡を舞台にした「もちろんフィクション」の物語~
※最初に念のため。この物語は完全なフィクションです。
登場する人物・会社・出来事はすべて架空です。
また「2028年に中古マンション価格が暴落する」
という予測でもありません。
あくまで不動産業界を舞台にした
読み物としてお楽しみください。
2013年、福岡のある建売会社に一人の男が入社した
2013年。
福岡のある建売会社に、一人の営業マンが入社しました。
名前は山下。
もちろん仮名です。
……というより、この人自体がおりません(笑)。
山下は、なかなか仕事のできる男でした。
土地を見る目もある。
仕入れ先との交渉もうまい。
営業力もある。
「あそこの土地、そろそろ売りに出るらしいですよ」
「この土地なら3区画に割った方が利益取れますよ」
そんな話をどこからともなく仕入れてくる。
会社からすれば、頼りになる社員です。
ところが――。
この男には、会社が知らない一面がありました。
仕入れ先業者との取引の中で、
本来自分の懐に入れてはいけないお金を、
ちょろまかしていたのです。
どうやって?
それは書きません(笑)。
これは専門家コラムであって、
「会社のお金をちょろまかす方法・実践編!」
ではありません。
最初は少額だったのかもしれません。
「これくらいなら分からんやろ……」
一度うまくいく。
二度目もうまくいく。
人間とは怖いもので、バレないことが続くと、
いつの間にか「悪いことをしている」
という感覚まで薄くなるのかもしれません。
「ワシ、自分でやった方が儲かるんちゃう?」
数年後。
山下は会社を辞め、独立します。
建売会社を立ち上げました。
そして――
これが当たった。
土地を買う。
家を建てる。
売れる。
次も売れる。
また土地を仕入れる。
銀行からも融資が出る。
「なんや。会社員やってた時より全然ええやん!」
山下社長、絶好調です。
その頃だったでしょうか。
山下の少し後ろに、
誰かが立っていたような気がします。
不動産の神様です。
ただし、まだ何も言いません。
この神様。
結構、気が長いんです。
建売の次は、中古マンションや!
建売事業が軌道に乗った山下は、
さらに商売を広げます。
「中古マンションの買取再販も儲かるんちゃうか?」
中古マンションを仕入れる。
リフォームする。
販売する。
売れた。
また仕入れる。
また売れた。
それならもっと買おう。
これも売れた。
「ワシ、天才ちゃうか?」
だんだん山下は大胆になります。
在庫を増やす。
社員を増やす。
そして店舗も増やす。
1店舗。
2店舗。
3店舗……。
銀行もお金を貸してくれる。
会社も大きくなる。
中古マンション価格も上昇している。
昨日高いと思った仕入れ価格が、
半年後にはそれほど高く感じない。
こういう時、不動産屋にとって一番怖いことがあります。
それは、
「相場が儲けさせてくれたのか、
自分の腕で儲けたのか分からなくなること」です。
山下は完全に後者だと思っていました。
「ワシには不動産を見る目がある!」
後ろにいる不動産の神様。まだ黙っています。
そして2028年――中古マンションバブル崩壊
ここからは完全なる架空の未来です。
2028年。
これまで上昇を続けていた中古マンション市場が、
突然失速した――ということにしましょう。
予言とちゃいますよ(笑)。
今までならすぐに売れていた
マンションに問い合わせが来ない。
「まあ、そのうち売れるやろ」
1か月。
売れない。
「100万円下げよか」
売れない。
「もう100万円!」
まだ売れない。
しかし会社が抱えているのは1室や2室ではありません。
山下は絶好調だった時期に、銀行から資金を借りて
次々とマンションを仕入れていました。
売れなくても銀行への返済はあります。
社員の給料もある。
店舗の家賃。
広告費。
リフォーム費用。
金利。
出ていくお金だけは、絶好調です。
少し前まで、
「次はどこに店舗出そかな?」
と言っていた山下社長。
今では、
「あと何万円下げたら売れるんや……」
毎晩、電卓を叩くようになりました。
そしてついに、会社の借金は
とんでもない金額になってしまいました。
深夜の事務所に現れた男
ある日の深夜。
社員は全員帰っています。
山下は一人、資金繰り表を眺めていました。
銀行借入残高を見る。
ため息をつく。
もう一度見る。
「…………なんで、こんなことになったんや」
その時でした。
「山下さん」
「!?」
誰もいないはずの事務所から声がしました。
「誰や!」
「私です」
「私って誰やねん!」
「不動産の神様です」
「…………は?」
神様は勝手に向かいの椅子へ座りました。
そして山下の資金繰り表を覗き込みます。
「いや~、よう借りましたなぁ」
「ほっといてくれ!」
「中古マンションも、ぎょうさん持ってますな」
「今それ言うな!」
神様は電卓を手に取りました。
カチャカチャカチャ……。
そして突然、山下に聞きます。
「ところで山下さん」
「なんや?」
「2013年のこと、覚えてます?」
山下の顔から表情が消えました。
「…………知らん」
「建売会社におりましたな?」
「…………」
「仕入れ先さんとの間で、何かありませんでした?」
「何もない!」
神様が笑います。
「ほんまにワシに言わせます?」
「…………。」
しばらく沈黙。
神様はもう一度、電卓を叩きました。
カチャカチャ……。
「山下さん」
「なんや!」
「よかったですね」
「何がや!」
「今作った借金……」
神様が電卓を山下の前に置きました。
「あの時ちょろまかした金、とっくに超えてますで」
「・・・・・・。」
そして神様が一言。
「15年かかりましたけど、ようやく帳尻が合いましたな」
「ほんなら真面目な奴が報われへんのは何でや!」
山下は腹を立てました。
「ちょっと待て!」
「はい?」
「ほんなら聞くけどな!真面目に仕事しとる奴が
報われへんことなんか、いっぱいあるやないか!」
神様は黙っています。
「あいつは真面目にやっとるのに儲からん。
こっちは要領ええ奴がどんどん会社大きくしよる。
そんな世界やろ!」
すると神様が言いました。
「山下さん。それはちょっと違いますわ」
「何がや?」
「ワシ……」少し間を置いて、「支払い遅いねん」
「遅すぎるやろ!」
「不動産は長期決済ですねん」
そんなアホな(笑)。
不動産の神様が本当にいるのかは知りません
私は長いこと不動産業界を見てきました。
もちろん、本当に不動産の神様を見たことはありません。
宅建業の免許も持ってないと思います(笑)。
そして、悪いことをした人が
必ず失敗するとも思っていません。
逆に、真面目に仕事をしていれば
必ず大金持ちになれるほど世の中は単純でもありません。
でも不思議なことはあります。
10年以上前のお客さんから突然、
「あの時ちゃんとしてくれたから、今度は親の家をお願いしたい」
と連絡が入る。
昔、一生懸命対応した小さな仕事が、
何年も経って大きな仕事になって帰ってくる。
その反対もあるでしょう。
目先の利益を優先して信用を失えば、
その時は儲かっていても、どこかで仕事が逃げていく。
不動産の神様とは、もしかすると本当の神様ではなく、
「長い年月をかけて積み上がった信用」
のことなのかもしれません。
悪いことして手に入れた100万円も、
真面目に働いて稼いだ100万円も、
通帳に印字されたら同じ100万円です。
でも――
不動産の神様には、その100万円の
「色」が見えているのかもしれません。

そして最後に神様へ聞いてみました。
「真面目に30年近く
仕事してきた人間には、何かないんか?」
神様が答えます。
「ありますよ」
「何や?」
「信用です」
「……地味やな」
すると神様は笑って言いました。
「不動産屋には、それが一番高いんですわ」
――おしまい。
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
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