【物件対決・後編】「裏がJR大阪環状線の家」VS「前が広~い墓地の家」ついに決着!

 

 

前編では、なかなか決着がつきませんでした。

 

裏がJR大阪環状線の家、2,980万円。

そして、

前が広~い墓地の家、2,980万円。

 

条件はどちらも悪くありません。

 

平成15年築、ガレージ付き。

 

今の大阪市内で一戸建てを探している

この夫婦にとって、2,980万円はかなり魅力的です。

 

ところが――。

 

音に敏感な奥さんは、「私は絶対、お墓の方!」

霊感が強いというご主人は、「俺は絶対、環状線の方!」

見事に真っ二つ。

 

夫婦で家を探しているはずなのに、

 

最後はもう、「電車か墓か」

という、何の相談をしているのか

分からない状態になってしまいました。

 


「もうちょっと考えます」

 

 

 

結局、その日は結論が出ませんでした。

 

帰宅してからも夫婦会議です。

 

奥さんは墓地前の家を推します。

 

「静かやったやん」

「前も開けてたし」

「ワンちゃん飼っても落ち着いて暮らせそうやし」

 

最後のワンちゃんは、ほぼ何にでも付いてきます。

 

一方のご主人。

 

「俺は無理やと思う……」

「何が?」

 

「何がって……墓やん」

「墓は見たら分かる」

 

「そういう意味ちゃうねん」

 

奥さんには霊感がありません。

 

だから、「静かな墓地」にしか見えない。

ご主人には何かを感じるらしい。

 

だから、「静かすぎる墓地」に見える。

同じ景色を見ても、感じ方がまったく違います。


そして、ご主人は実家へ

 

 

 

そんなある日。

 

ご主人が田舎の実家へ帰る機会がありました。

 

お母さんは今も元気に暮らしています。

ただ、お父さんは10年前に亡くなっていました。

 

実家へ帰れば、お墓参りにも行きます。

 

いつものようにお父さんのお墓の前に立ち、

手を合わせました。

 

普段なら、「みんな元気にしてるで」

「母ちゃんも元気やで」

そんな報告をして終わるのでしょう。

 

ところが今回は、頭の中にあの家が浮かびます。

 

大阪市内で見つけた2,980万円の家。

 

裏が環状線の家。

そして――前が墓地の家。

 

ご主人、心の中でお父さんに相談したそうです。

「親父やったら、どっち買う?」

 

もちろん返事はありません。

お墓ですから。

 

「そろそろ家も欲しいねん」「子どもも欲しいし」

「嫁は犬飼いたい言うてるし」

「でも墓の前やねん……」

 

亡くなったお父さん相手に、まさかの不動産相談です。


その夜、お父さんが夢に出てきた

 

 

その日の夜。

 

ご主人は実家で眠りました。

すると――。

 

夢の中に、

亡くなったお父さんが出てきたそうです。

 

別に白装束でもありません。

怖い顔でもありません。

 

生前と同じ、普通のお父さん。

そして、ご主人にこんなことを言ったそうです。

 

「お墓の前にワシがおるから心配せんと、ここ買え!」

 

さらに、

「ほんなら子どももできて、

ワンちゃんと家族仲良く暮らせるぞ」

 

……。

 

ええ話です。

 

ええ話なんですが、一つだけ言わせてください。

 

お父さんのお墓、そこちゃいますやん。

 

大阪のその墓地に引っ越してくるんでしょうか。

霊感のない私には分かりません。

 

ただ、ご主人にとっては

妙にリアルな夢だったそうです。

 

朝起きても、

お父さんの言葉をはっきり覚えていました。

 


「もう一回、墓地の前の家を見たい」

 

 

 

大阪へ戻ったご主人。

 

奥さんに言います。

「もう一回、あの家見に行こか」

 

奥さん、「どっち?」

 

「墓の方」「えっ!?」

 

そら驚きます。

 

あれだけ、「俺は無理」と言っていた人です。

 

奥さんが聞きます。「何で急に?」

「親父がな……」ここから夢の話を説明。

奥さんは黙って聞いていました。

 

そして一言。

「……お父さんのお墓、そこちゃうやん」

 

やっぱりそこです。

 


もう一度、墓地前の家へ

 

 

そして二度目の内覧。

 

玄関を開けます。

リビングへ入ります。

 

前回、ご主人が妙に静かになった窓の前へ。

 

その向こうには――

やっぱり墓地があります。当然です。

 

数日でなくなるわけがありません。

 

奥さんがご主人の顔を見ます。「どう?」

 

ご主人はしばらく外を眺めていました。

 

前回なら、「俺、ここアカンかもしれん」でした。

ところが今回は――。

「……前より全然マシや」

 

奥さん、「ホンマ?」

「うん」

 

さらにしばらく見て、「これなら!」出ました。

 

不動産購入で意外と大事な言葉。

「これなら住めるかもしれん」です。

 

100点ではありません。

墓地がなくなったわけでもありません。

 

霊感が消えたわけでもありません。

 

ただ、「絶対無理」から「これなら」へ変わった。

家選びでは、この変化が大きいんです。

 


勝者!「前が広~い墓地の家!」

 

 

ということで、この物件対決。

 

勝ったのは――

前が広~い墓地の家!

 

2,980万円。平成15年築。ガレージ付き。

奥さん念願の一戸建てです。

 

 

奥さんは大喜び。

これで念願のワンちゃんも飼えます。

 

そしてご主人も、あれほど気にしていた

墓地を受け入れることができました。

 

結果だけ見ると、

墓地前の家を売った最強の営業マンは、

亡くなったお父さん。

 

物件を見てもいません。

重要事項説明も聞いていません。

 

宅建士でもありません。

 

それでも最後の一押し。

恐るべし、お父さんです。

 


2,980万円だから「欠点」も考えられた

 

 

 

ただ、この話。

笑い話だけではありません。

 

この夫婦が最初に気に入った家は4,500万円でした。

それに比べれば1,520万円の差があります。

 

大阪市内で、「駅もそこそこ近い」

「ガレージも欲しい」「築年数も古すぎるのは嫌」

「前も後ろも静か」「嫌悪施設もない」

「室内もキレイ」

 

全部を求めれば、当然価格は上がります。

 

逆に言えば、

何か一つ大きなクセがあるから2,980万円で買える。

 

これも中古住宅の見方です。

もちろん、安ければ何でもええわけではありません。

 

電車の音がどうしても無理な人に、

「安いから我慢しましょう」とは言えません。

 

墓地を見るたびに怖くなる人にも同じです。

 

でも、「この欠点なら私は受け入れられる」

と思えるなら、その物件は候補になります。

 


借りられる金額と、余裕を持って返せる金額は違う

 

 

 

私はこの夫婦の予算の決め方も、けっこう好きです。

 

ご主人の年収は約800万円。

奥さんのパート収入を合わせれば世帯年収は約920万円。

 

もっと高い住宅ローンを組む選択肢もあったでしょう。

 

でも、「3,000万円以内」を大きく崩さなかった。

これから子どもができるかもしれません。

ワンちゃんも飼いたい。

 

奥さんは――

ワンちゃんを一人にしたくないので

パートを辞める予定です。

 

ここだけは、お父さんも夢の中で

聞いていなかったかもしれません。

 

「犬の世話するから仕事辞めるって、

それはワシも聞いてへんぞ」

 

次に夢へ出てきたら、そう言うかもしれませんね。

 


最後に――家は条件表だけでは決まらない

 

 

 

不動産を長くやっていますが、

家探しというのは面白いものです。

 

条件がほぼ完璧な家なのに、

「何となく違う」と言われることがあります。

 

逆に、「前が墓地ですよ」「裏が線路ですよ」

という大きな欠点があるのに、

 

「ここなら暮らしていけそう」

となることもあります。

 

今回のご夫婦にとっては、

環状線の音より墓地の静けさ。

 

そして何より、ご主人の中で墓地に対する

気持ちが変わったことが決め手になりました。

 

家はスペックだけで買うものでもありません。

価格だけでもありません。

 

最後は、

「この家の欠点も含めて、ここで暮らしていけるか?」

私はそこが大事だと思っています。

 

それにしても――。

亡くなって10年。

 

息子のマイホーム購入まで心配してくれるとは。

お父さん、最後までええ仕事しましたな。

 


Q&A クセのある物件、実際どうなの?

 

Q1.線路沿いと墓地前、将来売りにくいのはどっち?

 

どちらも買う人を選ぶ条件です。

 

ただし「線路沿いだから必ず○%安い」「墓地前だから必ず売れない」

と単純には決められません。駅距離、道路、築年数、

間取り、周辺相場などを含めて判断します。

 

 

Q2.電車の騒音や振動は、一度の内覧で分かりますか?

 

一度だけでは判断しにくいです。

 

できれば曜日や時間帯を変えて確認した方がいいでしょう。

室内だけでなく、窓を開けた状態・

閉めた状態の両方を確認することも大切です。

 

Q3.墓地の前というだけで価格は下がりますか?

 

敬遠する人が一定数いるため、

価格形成に影響する可能性はあります。

 

ただ、前面が開けている、建物が建ちにくい、

比較的静かなどをメリットと感じる人もいます。

まさに人によって評価が分かれる条件です。

 

Q4.クセのある家は買わない方がいい?

 

そんなことはありません。

 

クセが価格に十分反映されていて、そのクセを自分自身が

許容できるなら、掘り出し物になることもあります。

 

大事なのは、「一般的に嫌われるか?」

だけではなく、

「自分たち家族が本当に気になるか?」

 

今回のご夫婦にとって、その答えは――

環状線より、お墓でした。

 

いや正確には、

お父さんがおる(らしい)お墓でした。

 

……お父さんのお墓、そこちゃいますけどね。

 

 

筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
  • 宅地建物取引士
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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若い時にはリフォームの仕事も経験済。
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