ケチケチ奥さんが家探し中に恋する乙女に変身した瞬間を営業マンが捉えた! ~予算700万円・現金一括・長屋OKから始まった夫婦のマイホーム探し~
~予算700万円・現金一括・長屋OKから始まった夫婦のマイホーム探し~
「予算は700万円です」
最初にそう言ったのは、ご主人ではありません。
奥さんです。
しかも「700万円くらい」ではありません。
700万円まで。現金一括。
住宅ローンは組まない。
ここ、大事です。
ご主人は公務員。
奥さんは看護師。
共働きで、自己資金として700万円を用意していました。
住宅ローンを組もうと思えば
十分検討できるご夫婦です。
ところが奥さん。
「ローン組んだら利息払わなあかんやん」
「はい」
「もったいないやん」
「まあ……そうですね」
「だから現金で買える家でええねん」
財布のひも、鋼鉄製です。
「長屋でもええよ。汚かったら私が綺麗にするから!」
条件を聞いていくと、
さらに奥さんのキャラクターが分かってきました。
一戸建て希望。
でも長屋でもOK。
築年数もそれほど気にしない。
多少汚れていても構わない。
奥さん、とにかく綺麗好きなんです。
営業さんが、
「700万円以内でしたら、
かなり古い物件も多くなりますよ」
と言うと、
「古いのと汚いのは別やろ?」
なるほど。
「汚かったら私が掃除したらええねん」
「結構汚れてても?」
「私、掃除得意やで」
ご主人、横でウンウン。
どうやら本当に得意らしい(笑)。
「業者に頼んだらお金掛かるやろ?」
出ました。
綺麗好きの前に倹約家。
この奥さんにとって、汚れは欠点ではありません。
自分で落とせる汚れなら、
むしろ値引き材料くらいに思っている(笑)。
予算700万円で探すと……なかなかの家が出てきます
営業さんも条件に合う物件を探します。
500万円台。
600万円台。
700万円以内。
当然、新築なんか出てきません。
築年数の古い中古一戸建てや長屋が中心です。
そしてある日、夫婦で長屋を内覧しました。
玄関を開けます。
昭和。
もう一歩入ります。
さらに昭和。
キッチンも年季が入っています。
お風呂はタイル。
壁もくすんでいる。
床にも長年の生活感。
普通のお客さんなら、「う~ん……」
となりそうなところです。
ところが奥さん。「これ、いけるで」
営業さん。「いけます?」
「キッチンは磨いたらええやろ」
「はい」
「壁も拭いたらだいぶ変わる」
「なるほど」
「風呂もカビ取ったら綺麗なるわ」
ご主人。「ほんまに全部やるん?」
奥さん。「私を誰やと思ってんの?」
……誰なんでしょう(笑)。
「これくらいなら私がピカピカにしたる!」
奥さんは強い。
古いキッチンを見ても怯みません。
水回りをチェック。
収納を開ける。
窓を見る。
壁を見る。
完全に住宅内覧というより年末大掃除の下見です。
「これくらいやったら私がピカピカにしたるわ」
営業さんも感心します。
ただし、その長屋ですぐ決まったわけではありません。
「次も見てみたい」
ということで、もう一軒案内することになりました。
そして長屋を出て、次の物件へ向かう途中――。
営業さんが何気なく言いました。
「そういえば、この近くで
弊社が新築のオープンハウスやってるんですよ」
奥さん。
「新築?」
「はい」
「うちら関係ないやん」
その通り(笑)。
「長屋をリフォームするときの参考程度に見ません?」
ここで営業さんが上手かった。
「新築買いませんか?」とは言わなかった。
「住宅ローンなら買えますよ」とも言わなかった。
こう言ったんです。
「長屋を綺麗にリフォームするときの
参考程度に、ちょっと見ていきます?」
なるほど。
新築を見るんじゃない。
リフォームの参考を見るだけ。
奥さん。
「え~、時間の無駄ちゃう~?」
営業さん。
「すぐそこですし、5分くらいですよ」
するとご主人。
「ま~ええやん。ちょっとだけ見よか。ついでやし」
奥さん。
「ほんま見るだけやで」
営業さん。
「もちろんです」
この時、誰も知りませんでした。
この「5分」が――。
700万円現金一括計画を根底からひっくり返すことを。
ガチャ……「…………」
新築一戸建てに到着。
玄関を開けます。
ガチャ。
新品の玄関。真っ白な壁。ピカピカの床。
新築独特の匂い。広いLDK。対面式のシステムキッチン。
新品の洗面化粧台。綺麗なお風呂。たっぷりの収納。
さっきまで見ていた長屋とは――。
何もかもが違う。
物件のギャップがエグい(笑)。
そして奥さん。
「…………」
急に静かになりました。
ご主人。
「どないしたん?」
奥さん。
「…………」
キッチンへ向かいます。
スーーッ。
天板を手で撫でる。
「……綺麗♡」
誰や?
さっきの奥さんどこ行った!?
超倹約家の奥さん、突然「恋する乙女」になる
ここから奥さんがおかしい。
「これ食洗機?」
「付いてます」
「ええなぁ♡」
「この収納、全部入るん?」
「かなり入りますよ」
「めっちゃええやん♡」
お風呂へ。「広っ!」
洗面所へ。「綺麗!」
収納を開けて。「ここ掃除道具入れられるやん♡」
ご主人、とうとう言います。
「おい」
「何?」
「さっきまで時間の無駄言うてたやろ」
奥さん。
「そんなこと言うた?」
言うたがな!10分前や!(笑)
長屋では腕まくりして、「私が磨いたる!」
だった人が、
新築へ入った途端、「このキッチンかわいい♡」です。
奥さんのギャップもすごい。
物件のギャップもすごい。
恐るべし新築一戸建て。
営業さん「じゃあ次の物件へ行きましょうか」
そして、この営業さんがまた上手い。
奥さんが完全に新築にメロメロになっているのに、
押さない。
「どうです?買いませんか?」なんて言わない。
普通に、「それじゃあ次の物件へ行きましょうか」
と言った。
すると奥さん。
「…………」
営業さん。
「どうしました?」
奥さん。「ちょっと待って」
来ました(笑)。
「これ……」一呼吸置いて――。
「なんぼなん?」
営業さん、心の中では
ガッツポーズしていたかもしれません。
でも顔は平静。
ここで初めて資金計画の話になります。
700万円は「予算」ではなく「自己資金」に変身した
夫婦には700万円の現金があります。
最初は、
700万円=購入価格の上限
でした。
ところが新築を見た後は、
700万円=自己資金
に変わりました。
残りは住宅ローン。
ご主人は公務員。
奥さんは看護師。
共働き。
もちろん住宅ローンは職業だけで
決まるものではありません。
収入や既存借入、年齢、物件などを
含めて金融機関が審査します。
ただ、このご夫婦の場合は
住宅ローンを利用した資金計画を十分検討できました。
営業さんが月々の返済イメージを説明します。
すると――。
あれだけローンを嫌がっていた奥さんが、
「月々なんぼになるん?」
ご主人。
「お前がそれ聞くんかい!」
(笑)
そして買ったのは……まさかの新築一戸建て
結果。
夫婦が購入したのは――。
新築一戸建て。
最初の希望を思い出してください。
予算700万円。
現金一括。
住宅ローンは嫌。
長屋OK。
古くてもOK。
汚れていても奥さんが掃除する。
それが最終的には、
ピッカピカの新築一戸建て。
変わりすぎやろ(笑)。
でも私は、これを単純に
「営業マンに高い家を売られた話」とは思いません。
夫婦は実際に古い家を見た。
長屋も見た。
そして新築も見た。
そのうえで資金計画を確認し、
「自分たちはどんな家で暮らしたいのか」
を考え直した結果です。
家探しでは、最初に決めた条件が絶対とは限りません。
実物を見ることで、自分でも気づいていなかった
希望が出てくることがあります。
この奥さんの場合、
それが猛烈に分かりやすかっただけです(笑)。
よくあるQ&A
Q.自己資金700万円なら700万円の家を買う方が安全?
必ずしもそうとは限りません。
購入後の修繕費や生活予備費もありますので、
現金を全部使う方法と、住宅ローンを利用して
手元資金を残す方法の両方を比較する価値があります。
Q.安い長屋を買って自分で綺麗にするのはアリ?
もちろん選択肢です。
ただし掃除で綺麗になる部分と、屋根・構造・
配管・電気・給湯設備など専門工事が必要な部分は別です。
購入前に建物の状態を確認したいところです。
Q.新築を見ると予算が上がりやすい?
これは……。
今回の奥さんに聞いてください(笑)。
ただ、価格だけでなく月々の返済額や
将来必要になる費用まで含めて比較することが大切です。
筆者の独り言
新築の引渡しの日。
奥さんはご機嫌です。
あれほど気に入った新品のキッチンもピカピカ。
おそらく、この奥さんなら
新築の状態をずっと維持するでしょう。
何せ、
汚れた長屋すら「私がピカピカにしたる!」
と言っていた人です。
営業さんが奥さんに聞きました。
「最初のご希望、覚えてます?」
奥さん。「何やった?」
「700万円以内。現金一括。長屋でもOKです」
奥さん、しばらく沈黙。
そして愛おしそうに新品のキッチンを見ながら――。
「……人生、考え方変わることもあるやろ♡」
ご主人。
「新築見て5分で変わったけどな!」
いや~。
物件のギャップもすごかったけど、
一番リノベーションされたんは
奥さんやったかもしれません(笑)。
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
- 宅地建物取引士
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