大手なら高く売ってくれるやろ!大阪中の親戚が相続長屋の売り方でもめ続けた結末
大阪市生野区に、古い長屋が一軒あった。
親が亡くなった後は空き家。室内には家財が残り、
台所も浴室も昭和のまま。
雨漏りこそしていなかったが、
誰かが住むには相当なリフォームが必要だった。
この長屋を相続する予定だったのは、
全員60歳以上の兄弟姉妹。
しかも住んでいる場所がバラバラだった。
長男は阿倍野区。次男は西成区。長女は平野区。
次女は東大阪市。
さらに話し合いには尼崎市に住む親戚まで参加した。
大阪と兵庫をまたぐ、壮大な相続会議の始まりである。
全員が勝手に買取価格を聞いていた!
最初に動いたのは、西成区の次男だった。
地元の不動産会社へ相談すると、
「現状のままなら、買取価格は200万円くらいですね」
と言われた。
すると平野区の長女も、
近所の不動産会社へ写真を見せに行った。
「うちは230万円くらいかな」
東大阪市の次女も負けていない。
「こっちの小さい会社、250万円出す言うてるで!」
長男は少し不満そうだった。
「そんな聞いたこともない会社へ売って大丈夫なんか?
やっぱり大手にも聞かなあかんやろ」
全員が別々の会社へ相談するものだから、
買取価格も説明も全部違う。
「200万円や」
「いや、230万円やった」
「うちは250万円!」
「会社小さいけど、そこが一番高いやん!」
誰が窓口なのか。誰に売却を任せるのか。
そもそも買取なのか仲介なのか。
何一つ決まっていない。
長屋は生野区で静かに待っているのに、
阿倍野区、西成区、平野区、東大阪市、尼崎市では
電話が鳴りっぱなしだった。
「買取は安過ぎる!仲介で売ろう!」
買取なら早い。
家財を残したままでも、古い設備のままでも、
不動産会社が直接買ってくれる。
契約条件にもよるが、売却後の責任を抑えられる場合もある。
しかし価格は、一般の買主を
探す仲介より安くなることが多い。
そこで阿倍野区の長男が言った。
「250万円で売るんは、もったいない。
仲介なら500万円以上で売れるんちゃうか?」
西成区の次男が反論する。
「500万円で売りに出しても、
売れへんかったら一緒やろ」
平野区の長女は、
「でも急いでへんし、一回高く出してみたら?」
東大阪市の次女は、
「早よ売って分けたほうが楽やで」
尼崎市の親戚まで、
「大阪の不動産、上がってるんちゃうの?」と参戦する。
最終的には、
長男の「大手なら安心や」という意見が通った。
大手不動産会社へ仲介を依頼し、
売出価格は580万円に決定した。
「250万円で買い取られるところを、
580万円で売れたら全然違うで!」
全員の期待は一気に膨らんだ。
大手から毎週届く“同じメール”
専任媒介契約を結んだため、
販売状況の報告が長男へ届くようになった。
最初の報告には、こう書かれていた。
「残念ながら、今週はお問い合わせがありませんでした。
引き続き販売活動を頑張ります」
長男は兄弟へ電話した。
「まだ問い合わせないらしいわ。
まあ、最初の週やからな」
翌週も報告が届いた。
「残念ながら、今週もお問い合わせがありませんでした。
引き続き販売活動を頑張ります」
その翌週も、ほぼ同じ。
「また“頑張ります”や。
何を頑張ったんか書いてくれたらええのに」
580万円の長屋には、
問い合わせすら入らなかった。
大阪市内とはいえ、古い長屋である。
家財も残り、改修費もかかる。
一般の人が住宅ローンで購入するには、
なかなか難しい物件だった。
しかし相続人たちは、
「大手やから、そのうち売ってくれるやろ」
と待ち続けた。
2カ月後、ようやく報告内容が変わった!
販売開始から約2カ月。
長男のもとへ届いた報告メールの内容が、
初めて変わった。
「不動産業者で、価格200万円にて
検討されているところがあります」
長男は思わず声を上げた。
「何ぃ!200万円やと?」
すぐに西成区の次男へ電話する。
「業者が200万円で検討してるらしい!」
「前に小さい会社が250万円で買う言うてたやないか!」
そこから平野区、東大阪市、尼崎市へ電話が飛んだ。
「大手に任せて、50万円安なっとるがな!」
「しかも2カ月待ってやで!」
「もう不動産屋変えよか!」
「最初の250万円の会社、まだ買ってくれるん?」
「知らんがな。誰が聞いた会社やった?」
また大阪相続サミットの開幕である。
大手だから高く売れるとは限らない。
会社の大きさと、
その物件を得意としているかどうかは別の話だ。
きれいなマンションや一般的な住宅を売るのが
得意な会社もあれば、古い長屋、再建築不可、
家財の残った空き家を得意とする小さな会社もある。
看板は大きくても、
長屋まで大きく見せてくれるわけではない。
見たことも聞いたこともない名前
大手との媒介契約をやめるのか。
最初に250万円を提示した小さな会社へ頼むのか。
もう少し価格を下げ、仲介を続けるのか。
全員の意見がまとまらない中、
相続手続きのために取り寄せていた被相続人の戸籍、
除籍謄本、改製原戸籍などがそろった。
書類を確認していた長男の手が止まった。
そこに、見たことのない
名前が記載されていたのである。
「……この人、誰や?」
西成区の次男へ聞いても知らない。
平野区の長女も、東大阪市の次女も知らない。
尼崎市の親戚にも聞いたが、
誰一人その名前を聞いたことがなかった。
ところが戸籍上は、
間違いなく被相続人の子どもだった。
つまり、もう一人相続人がいたのである。
家の買主より先に、知らない相続人が見つかった!
相続人全員で遺産分割をするなら、
その一人だけを無視して話を進めることはできない。
どこに住んでいるのか。
今も元気なのか。こちらの存在を知っているのか。
長屋について、どんな考えを持っているのか。
まず連絡先を調べ、
事情を説明するところから始めなければならない。
580万円で仲介を続けるのか、
250万円で買い取ってもらうのか。
そんな話は、いったん全部止まった。
阿倍野区の長男も、西成区の次男も、
平野区の長女も、東大阪市の次女も言葉を失った。
全員60歳を過ぎてから、
知らない兄弟姉妹がいると分かったのである。
もはや不動産価格だけの問題ではない。
そして現在も、相続手続きは難航中だという。
大手なら高く売ってくれる。
小さい会社なら安い。仲介なら得で、買取なら損。
不動産会社選びでもめ続けた一族だったが、
その前に確認するべきことがあった。
そもそも、この長屋を相続するのは誰なのか。
長屋を買ってくれる人は見つからなかったのに、
誰も知らなかった相続人は見つかってもうた。
ほんま、相続は最後まで何が出てくるか分かりません!
相続長屋売却のQ&A
Q1.相続人の一人を除いて、不動産を売却できますか?
遺産分割協議によって売却方針や取得者を決める場合、
原則として相続人全員の合意が必要です。
知らない相続人が判明したら、その人を除外して
話を進めず、司法書士や弁護士へ相談しましょう。
Q2.なぜ被相続人の古い戸籍まで必要なのですか?
相続人を正確に確認するためです。
法務局も、相続による登記では被相続人の出生から
死亡までの戸籍・除籍謄本などが必要になると
案内しています。法務局の必要書類案内
Q3.大手不動産会社へ頼めば高く売れますか?
会社の規模だけでは決まりません。
一般的な住宅、マンション、長屋、借地、
再建築不可など、会社によって得意分野が違います。
査定価格だけでなく、販売方法、想定する買主、
売れなかった場合の提案まで聞いて比較しましょう。
- 不動産キャリア29年
- 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
- 宅地建物取引士
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