大阪の住宅が余っているのに建て続けるのはなぜ? 空き家増加と新築ラッシュの矛盾を読み解く
大阪で増え続ける空き家問題——いま何が起きているのか
大阪の住宅地を歩いていると、シャッターが閉まったままの家や、雑草に覆われた空き家を見かけることが増えたと感じる人も多いのではないでしょうか。
実際、総務省の住宅・土地統計調査(2023年速報値)
によると、大阪府内の空き家率は約15%。
これは全国平均をやや上回る数字です。
特に目立つのが、
- 大阪市東成区・生野区・西成区などの老朽長屋・再建築不可物件
- 堺市や東大阪市の相続放置住宅
- 豊中市や枚方市などの高齢化による空き家化
いずれも共通しているのは、「売りたくても売れない」
「直そうにも費用がかかる」という状況です。
さらに、2024年からは相続登記の義務化が始まり、これまで放置されてきた空き家がようやく“表に出る”段階に来ています。

それなのに新築住宅は増えている
——“供給過多”の現実
「空き家が増えてるのに、なんでまだ建てるの?」
これは多くの大阪府民が感じている疑問です。
実は、2024年時点でも大阪府内では
年間約6万戸の新築住宅が着工されています。
堺市・茨木市・東大阪市などでは大型分譲地が次々に誕生。
一方で、中心部では空き家や老朽化物件が増える
——というミスマッチ構造が続いています。
背景にあるのは、「建てる側の事情」と
「買う側の心理」、そして「制度の歪み」です。
住宅メーカーやデベロッパーは、土地を仕入れて
建てて売ることで利益を出すビジネスモデル。
住宅ローン減税や新築購入補助金など、
国の政策も“新築中心”に設計されています。
つまり、「建てたほうが得」になっているのです。

空き家が減らない3つの構造的な原因
① 相続と登記の遅れで“売れない家”が放置される
大阪市西区にある築50年の長屋。
所有者が亡くなってから数年、
誰の名義にもなっていません。
相続登記をしていないため、
売ることも貸すこともできない“凍結状態”。
大阪府内では、こうした「相続空き家」が
全体の約4割を占めるとも言われています。
2024年4月からは相続登記が義務化されましたが、
すでに放置されている物件の処理は追いついていません。
② 再建築不可・老朽長屋など“市場に出せない物件”の多さ
生野区や東成区、西成区などの密集市街地には、
「再建築不可」の物件が多く存在します。
これは、家の前の道路が建築基準法で定める4メートル未満しかないなど、法的に再建築が認められない土地のこと。
結果、老朽化しても立て直せず、買い手もつかない。
壊すにも費用がかかるため、
**「持ち続けるしかない」**という悪循環に陥ります。
③ 新築偏重の住宅ローン・税制構造
多くの人が気づいていないのが、
制度的なバランスの悪さ。
住宅ローン減税は「築20年以内の住宅」が対象になる
ケースが多く、築40年以上の中古住宅は対象外。
つまり、古い家を直して住むより、
新築を買ったほうが得になる設計です。
これが、新築ラッシュを後押しし、
空き家を再利用する動きを阻んでいるのです。

新築ラッシュの裏側にある“経済的な歪み”
住宅が「住まい」ではなく「経済循環の手段」に
なっている現実も見逃せません。
デベロッパーは建てることで雇用と資金を回し、
銀行は住宅ローンを通じて利息を得る。
国は税収を確保できる——つまり、建て続けることで
経済が回る構造ができあがっているのです。
堺市北区や茨木市の郊外では、
ここ数年で新築分譲地が次々誕生しました。
その一方で、隣の町では空き家が目立ち始めています。
これは「開発による地価の二極化」が起きているサインです。

このままでは街がスカスカに?
悪循環のシナリオ
このまま“新築偏重”が続くとどうなるでしょうか?
人口が減る → 新築を建てても入居者が減る →
古い家が空き家になる → 地価が下がる → 開発が減る。
こうして住宅市場全体が縮小する
という悪循環が起こります。
実際、大阪府全体の人口は2020年をピークに減少傾向。
にもかかわらず住宅は毎年増えています。
このギャップが続けば、空き家率は20%を超える
可能性もあると専門家は指摘しています。

悪循環を断ち切るための4つの解消策
① 空き家の流通市場を活性化する(リフォーム・再販支援)
空き家を「負の資産」ではなく
「再生可能な資産」に変えることが第一歩です。
大阪市や堺市では、空き家リノベーション
補助制度や、民間の空き家買取サービスが増加中。
たとえば堺市南区では、古い木造住宅をリフォームして
若年夫婦向けに再販売する取り組みが進んでいます。
補助金を活用すれば、解体せず
再利用できるケースもあります。
② 相続・登記手続きを簡略化し、放置空き家を減らす
相続登記義務化はチャンスです。
不動産を「家族で共有しているけど誰も管理していない」
という状態を防ぐことで、流通が進みます。
大阪市では、司法書士会と連携して無料相談会も実施中。
「登記なんて難しそう」と思っている方こそ、
今動くべきタイミングです。
③ 新築中心の税制を見直す
国レベルでは、住宅ローン減税や補助金を
「中古住宅にも公平に適用する」議論が始まっています。
大阪府でも、リフォームに対する補助や
税控除を拡充する自治体が増えています。
「新築が得」から「再利用が得」へ。
制度の方向性を変えることが、
空き家問題の根本解決につながります。
④ 地域単位で「空き家活用計画」を策定する
空き家問題は、自治体・地域住民・民間の連携がカギです。
堺市や東大阪市では「空き家バンク」を設け、
民間業者と連携して売却や賃貸への橋渡しを進めています。
また、大阪市中央区では、古い長屋を改修してカフェや
コワーキングスペースに再生する取り組みも進行中。
**“壊す”ではなく“活かす”**という発想が、
地域価値を守る流れを生み出しています。

未来に向けて:新築と中古のバランスが取れた“循環型都市”へ
これからの大阪に必要なのは
“新築か中古か”という二択ではありません。
「建てる」から「活かす」へという価値観の転換です。
若い世代の中には、「古民家をリノベして暮らす」「中古マンションをDIYで直す」といったライフスタイルを選ぶ人も増えています。
AIやIoTを使ったリノベーション技術も進化し、
古い建物でも快適に暮らせる時代になりました。
大阪という都市は、古い街並みと
新しい建築が共存してこそ魅力がある街。
“スクラップ&ビルド”ではなく“ストック&リバイブ”の
考え方こそ、これからの都市の姿です。
不動産売買等でのよくある質問
大阪の空き家率はどのくらい?
2023年時点で約15%前後と推定されています。
特に大阪市内では築40年以上の空き家が増えています。
なぜ新築が多いのに空き家も増えるの?
人口減少で実需が減る一方、業界や金融の
構造上「建て続ける仕組み」が残っているためです。
空き家を再利用するにはどうすれば?
リフォーム・リノベーション・民泊転用・
賃貸活用など多様な選択肢があります。
自治体の補助金も活用できます。
相続登記をしていない空き家はどうなる?
2024年から義務化され、未登記のままだと
行政処分の対象になる可能性があります。
大阪で空き家活用を支援している自治体は?
大阪市、堺市、豊中市、東大阪市などが
空き家バンク制度や改修補助を導入しています。

