大阪の純子さんの物語 第3話 ~戸籍が教えてくれた、純子さんも知らなかった人生~

 

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~戸籍が教えてくれた、純子さんも知らなかった人生~

 

純子さんが旅立たれてから、

静かだった時間が一気に動き始めた。

 

病院への挨拶。

施設との最終手続き。

 

銀行口座の整理。

公共料金の解約。

 

家の管理。

そして相続。

 

人が亡くなるということは、

悲しむ時間よりも先に、現実が押し寄せてくる。

 

それまで約10年間、成年後見人として

純子さんを支えてきた甥御さんも、

一つひとつの手続きを淡々とこなしていた。

 

悲しみを押し殺すように。

 

純子さんならきっと、

「最後までちゃんとしてや」と笑って言うだろう。

 

だからこそ、その思いを胸に、最後の務めを果たしていた。

 

しかし、その頃の私はまだ知らなかった。

 

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この相続が、一人の女性の人生を

もう一度たどる旅になることを。


 

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相続の仕事では、まず戸籍を集める。

 

言葉にすると簡単だが、

これが決して簡単ではない。

 

現在の戸籍だけでは足りない。

 

出生までさかのぼる。

転籍していれば、その前。

 

さらにその前。

 

結婚。

離婚。

 

改製原戸籍。

除籍。

 

一枚一枚、時代の違う戸籍をつなぎ合わせながら、

一人の人生を追っていく。

 

戸籍は、不思議なものだ。

そこには感情は書かれていない。

 

「いつ生まれた。」

「いつ結婚した。」

「いつ亡くなった。」

 

それだけである。

 

しかし、その数行の記録の裏側には、

その人しか知らない人生がある。

 

私は何十通もの戸籍を並べながら、

純子さんの人生をたどっていた。

 

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そして、一枚の戸籍を見た瞬間、

思わず手が止まった。

「えっ……。」

 

そこには、想像もしていなかった事実が記されていた。


 

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純子さんのお父さんは、

離婚後ほどなくして再婚していた。

 

それだけではない。

 

戸籍を読み進めるうちに、

さらに驚くことがあった。

 

その新しい家庭は、純子さんが暮らしていた場所から

決して遠くない場所で生活していたのである。

 

私は何度も住所を見返した。

 

間違いではない。

こんなに近くに……。

 

純子さんは、この事実を知っていたのだろうか。

 

いや、おそらく知らなかった。

知っていたとしても、何も語らなかったのかもしれない。

 

幼い頃に父親と別れた純子さん。

 

その後の人生は決して平坦ではなかった。

戦後の厳しい時代。

苦労を重ねながら生きてきた。

 

その一方で、お父さんは新しい家庭を築いていた。

 

私は戸籍を見つめながら、

何とも言えない気持ちになった。

 

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戸籍には何も書かれていない。

 

誰が苦労したのか。

誰が泣いたのか。

誰が寂しかったのか。

 

そんなことは、一文字も書かれていない。

 

だからこそ、余計に胸が締め付けられた。


 

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さらに戸籍をたどっていく。

 

すると、その再婚相手との間に生まれた

子どもたちの存在が確認できた。

 

法律上は純子さんの兄弟姉妹。

 

しかし、お互い顔も知らない。

名前も知らない。

 

存在すら知らなかった。

 

私は静かに深呼吸をした。

これから、この方々へ連絡しなければならない。

 

相続人として。

 

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一本目の電話。

緊張した。

 

「突然のお電話で申し訳ありません。」

 

相手の方は当然驚かれた。

「えっ? 誰の話ですか?」

 

「大阪にお住まいだった方のお話です。」

「……。」

 

沈黙が流れた。

 

無理もない。

 

突然、自分には異母姉がいたと言われても、

信じられるはずがない。

 

ましてや相続の話である。

詐欺を疑われても不思議ではなかった。

 

私は戸籍の流れを丁寧に説明した。

 

どこで生まれ、どこで戸籍がつながり、

法律上どのような関係になるのか。

 

電話は短く終わった。

「一度、こちらでも確認してみます。」

 

そう言われた。

それが最初の一歩だった。


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その後、横浜にお住まいの方も、

秋田にお住まいの方も、

それぞれ専門家へ相談されたようだった。

 

数日後、再び連絡が入る。

「本当に相続人なんですね。」

 

電話の向こうから聞こえたその言葉は、

今でも忘れられない。

 

最初は辞退しようと考えていた方もいた。

 

「何十年も会ったこともない人の

財産を受け取っていいのだろうか。」

 

そんな葛藤もあったそうだ。

 

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私は思った。

この方々もまた、突然人生が変わった人なのだと。

 

誰も悪くない。

純子さんも悪くない。

 

異母兄弟の皆さんも悪くない。

法律も悪くない。

 

それでも、胸の奥に残る何かがあった。


 

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この仕事をしていると、相続とは

財産を分けるだけの手続きではないと何度も感じる。

 

戸籍を追えば、そこには家族の歴史がある。

 

笑顔もある。

涙もある。

誰にも語られなかった出来事もある。

 

今回の相続は、私に多くのことを教えてくれた。

 

戸籍という一枚の紙が、

人生の真実を教えてくれること。

 

そして、その真実が時に、

人の心を大きく揺さぶることを。

 

純子さんは、生前、

この異母兄弟の存在を知っていたのだろうか。

 

もし知っていたとしても、

何も語らなかったのかもしれない。

 

もし知らなかったのなら、

それもまた一つの人生だったのだろう。

 

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答えは、もう誰にも分からない。

 

分かっているのは一つだけ。

 

純子さんは、自分の人生を

精いっぱい生き抜いたということ。

 

そして、その人生の最後には、

血のつながりではなく、人と人とのつながりで

支えてくれた人がいたということだった。

 

その思いを胸に、私は相続手続きを進めていく。

 

しかし、この物語は、まだ終わらない。

 

このあと私は、10年間務めた成年後見人としての

役目を終え、一つの決断をすることになる。

 

それは、純子さんへの最後の恩返しだった――。

 

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(第4話へつづく)

 

 

筆者松本 親幸
  • 不動産キャリア29年
  • 株式会社フォローウィンドコーポレーション代表取締役
個人的には今までの不動産業経歴において1,500件超のお取引に関わっております。
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若い時にはリフォームの仕事も経験済。
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