引きこもり家庭と空き家問題──放置の先に起きる現実と、不動産会社ができること
はじめに
「親の家が空き家になっているけれど、どう動けばいいか分からない」
「家族が引きこもり状態で、相続や登記が進まない」
──そんな声を耳にすることが増えています。
引きこもりと空き家問題。一見別の社会問題のようですが、実は深くつながっています。
家庭の中で“誰も動けない状況”が続くと、家も時間も止まってしまうのです。
この記事では、引きこもり家庭で起こりやすい空き家問題の背景と、放置によって起こるリスク、そして不動産会社が果たす社会的な役割について、やさしく解説していきます。

なぜ「引きこもり」と「空き家」は関係しているのか
8050問題が生む“静かな孤立”
「8050問題」という言葉をご存じでしょうか。
80代の親と50代の子が同居し、子が引きこもり状態にある世帯を指します。
親が高齢化し、家の管理が難しくなっても、子が社会と断絶しているため、相続・登記・売却などの手続きが進まないケースが少なくありません。
このような家庭では、親の死後、家の管理が途端に途絶えます。
固定資産税や電気代の支払いが滞り、庭木や屋根の劣化が進み、やがて“空き家”として地域の問題になることもあります。

放置が生む「二次的な孤立」
空き家の放置は、物理的な老朽化だけでなく、心理的な孤立も深めます。
「誰かに相談しよう」と思っても、恥ずかしさや無力感から行動に移せない──
この状態が続くと、問題は雪だるま式に大きくなります。
- 固定資産税の負担
- ご近所からの苦情(景観・防犯)
- 倒壊や害虫被害などのリスク
- いざ売ろうとしても登記が進んでいない
こうした状況に陥ると、「もう手遅れかもしれない」と感じてしまい、さらに誰にも相談できなくなる悪循環に陥ります。

家族の孤立が「空き家リスク」に変わるメカニズム
経済的困窮と管理放棄
引きこもり家庭では、収入源が限られることが多く、
税金や修繕費などの出費が重荷になります。
「最低限の支払いで精一杯」「誰に頼めばいいか分からない」──
こうして管理が後回しになり、家は少しずつ痛んでいきます。
相続・登記の停滞
親が亡くなっても、引きこもり状態の子どもが相続手続きを進められず、結果的に所有者不明のまま年月が過ぎることがあります。
所有者不明土地の問題は、国全体でも大きな課題になっており、2024年には相続登記の義務化も始まりました。
とはいえ、「義務化」と言われても、実際にどうすれば
いいか分からないという声が多いのが現実です。

社会的な接点の欠如
家族の誰かが社会から距離を置いていると、
行政や地域とのつながりも薄くなります。
「誰も様子を見に来ない」「近所に迷惑をかけている気がするけど話しかけられない」──このような“静かな孤立”は、地域全体の空き家問題を見えにくくしています。
不動産会社が果たす3つの社会的役割
引きこもりや高齢化が絡む空き家問題は、行政や福祉の枠組みだけでは対応が難しい場合があります。
そんなとき、現場で具体的な解決策を
提示できるのが不動産会社です。

① 専門家との“橋渡し役”
空き家の処理には、登記・税・相続など専門知識が必要です。
不動産会社は司法書士や行政書士、税理士と連携し、
ワンストップで手続きを進めるサポートができます。
「どこから相談すればいいか分からない」という状態を解消する“入口”として、まず不動産会社に相談することが第一歩になります。
② 地域見守り・早期相談の窓口
地域密着の不動産会社は、近隣の住宅状況を
日常的に把握しています。
「この家、しばらく人の出入りがないな」「相続人がいないらしい」など、現場レベルで変化を察知し、早期対応につなげられます。
行政や地域包括支援センターと協力し、『空き家化する前の段階』で声をかけられるのも、不動産会社ならではの強みです。

③ 経済的ダメージを防ぐ“出口戦略”
空き家を放置すると、建物の価値は下がり続けます。
しかし、不動産会社を介すれば、「現状のまま売却」「解体費込みで買取」「活用提案」など、現実的な選択肢を持つことができます。
「自分で片づけられない」「修繕費がない」という家庭にとって、“そのままで相談できる”というのは大きな安心材料になります。
実際にあった空き家整理のケース
ケース①:親の家を相続できずに悩んだ50代男性
数年前に母親を亡くした男性がいました。
子どもの頃から引きこもり気味で、相続手続きが分からず放置。
気づけば家の外壁が剥がれ、税金督促状が届くようになっていました。
勇気を出して不動産会社に相談したところ、専門家と連携して登記を進め、最終的には現状のまま売却。税金と修繕費の負担から解放されました。

ケース②:高齢の親が施設に入り、空き家化した実家
70代の女性が施設に入居した後、息子が家を管理できずに1年が経過。
近隣から雑草や害虫の苦情が入り、やむなく相談へ。
現地確認の結果、建物は老朽化が進んでいましたが、
現状のまま買い取ることで早期解決に至りました。
これらの事例に共通しているのは、「放置期間が長いほど、手続きも費用も増える」ということです。
一日でも早く相談することで、
精神的な負担も軽くなります。

行政・地域・不動産が連携する新しい空き家対策
近年では、自治体や地域包括支援センターと
不動産会社が協力する動きも増えています。
例えば、行政が「空き家バンク」や「相続相談窓口」を設け、不動産会社が現場対応を担う形です。
また、2024年からは相続登記義務化がスタート。
これにより、相続を放置するリスクが高まっています。
引きこもり家庭でも、早めに専門家や不動産会社に相談することで、義務化対応と空き家防止を同時に進めることができます。
今できる3つの行動
1️⃣ 家の現状を把握する
「最後に掃除したのはいつか」「郵便物が溜まっていないか」など、
家の状態を確認するだけでも立派な第一歩です。
2️⃣ 誰かに話してみる
家族や親戚、地域包括支援センターなど、
一人で抱え込まないことが大切です。
3️⃣ 不動産会社に相談してみる
「売る」だけが目的ではなく、 現状の確認・管理・相続準備の相談も受けてくれるところが多いです。

まとめ──『動けない家族』に寄り添う最初の相談先へ
引きこもり家庭の空き家問題は、「怠けている」「放置している」といった単純な話ではありません。
そこには、長年の孤立、経済的な不安、
家族関係の葛藤が複雑に絡み合っています。
しかし、家を守ることは、
家族の未来を守ることにもつながります。
不動産会社は、手続きや売却の専門家であると同時に、
「動けない家族が次の一歩を踏み出すための伴走者」です。
一人で悩まず、まずは“話をしてみる”。
そこから、止まっていた時間が少しずつ動き出します。
不動産売買・空き家対応でよくある質問(FAQ)
Q1:引きこもりの家族がいても、家の売却や相続はできますか?
可能です。家族の同意や手続きが整えば、専門家と連携して進めることができます。
不安な場合は、司法書士や不動産会社に同席をお願いしましょう。
Q2:相続登記をしていない家はどうすればいい?
2024年から相続登記が義務化されました。
放置すると手続きが複雑になるため、早めの相談がおすすめです。
Q3:成年後見人がいる場合の売却手続きは?
家庭裁判所の許可が必要ですが、後見人と不動産会社が連携すれば進められます。
透明性を重視して進めるのがポイントです。
Q4:老朽化した家や事故物件でも売れますか?
状態によりますが、現状のまま買取してくれる不動産会社もあります。
「どうせ無理」と思わず、一度相談する価値はあります。
Q5:どこに相談すればいいかわからない場合は?
自治体の空き家相談窓口や地域包括支援センター、地元の不動産会社が入口になります。
“とりあえず話を聞いてもらう”だけでも、解決への大きな一歩です。
まとめの一言
引きこもりと空き家は、どちらも
“家庭の中で見えにくい孤立”から生まれます。
けれども、誰かが一歩を踏み出せば、
問題は確実に動き出します。
家のことを整理することは、心の整理にもつながる──
そんな気持ちで、まずは
小さな相談から始めてみてください。

