放置すると危険?大阪市内の住宅密集地に残る“長屋・古家”の将来と安全対策
はじめに
大阪市を歩くと、特に西成区・阿倍野区・住吉区・住之江区など古くからの住宅地には、築50年〜80年、長屋・古家と呼ばれる木造家屋が軒を連ねています。
かつては地域の暮らしの拠点だったこれらの家屋も、今では人が住まなくなり、空き家化しているケースが増えています。
所有者や相続人の中には、「もはや手をつけられない」「売れないかもしれない」という不安を持つ方が少なくありません。
しかし、『放置』は最も危険な選択です。
劣化・倒壊・火災だけでなく、行政指導や強制除却、
近隣トラブルなどのリスクも孕んでいます。
一方で、適切な対策・選択をすることで、
安全を確保しながら将来を描くことも可能です。
本記事では、フォローウィンドがこれまで多くの長屋・古家と向き合ってきた経験をもとに、西成区・阿倍野区などの密集地を念頭に置いた将来展望と安全対策を、段階的に解説します。
「まだ大丈夫」と思って放置してしまう前に、
自宅の“未来”を描くきっかけになれば幸いです。

第1章:大阪の密集地に残る“長屋・古家”の現状
都市形成と密集地化の背景
大阪市は戦前・戦後期において、路地・狭小敷地型の
住宅が密集して発展してきました。
特に下町地域では、細街路・裏道・私道が網の目のように張り巡らされ、隣接する家屋との距離も極めて近い配置が標準化されてきました。
こうした町割りの構造は、再整備・再開発が
しづらい「骨格」として残り続けています。
西成区・阿倍野区も例外ではなく、戦後間もない時期の建築物や戦災復興期の住居群が混在しており、新築建替えが進みにくい再建築不可地域・既存不適格地域を含むエリアが点在しています。
長屋・古家が“新築も解体も進みにくい”事情
- 再建築不可・既存不適格
建築基準法・都市計画法の制約により、現在の法規に沿って建て替えを認められない物件が多くあります。 - 狭小・不規則敷地
接道幅1〜2m、変形敷地、私道しか出られない敷地など、法的に建替え要件を満たしにくいケースが多い - 隣家への依存構造
長屋では壁・屋根の一部を共有・依存している例があり、単独での解体・改修が難しい - 運用市場性の低さ
「売れない」「貸せない」と市場から敬遠されやすい構造・立地条件
空き家化と老朽化の進行
近年、所有者高齢化・相続後の無管理化により、
空き家化が急速に進んでいます。
屋根の雨漏り、外壁のひび割れ、シロアリ被害、腐朽などが進むと、構造の安全性は急激に劣化します。
フォローウィンドにもこうした相談が多数あります。
たとえば「名義は祖母のまま」「遠方に住んでいて管理できない」「解体業者に見積もりを頼んだが高額で手を引いた」など、現場で出る“誰にも相談できない”事例がしばしばです。
このような状態を放置すると、
手遅れになる可能性が高まります。
本稿では、そうなる前に打てる手を整理していきます。

第2章:放置のリスク — “見えない危険”が忍び寄る
放置された長屋・古家は、時間の経過とともに
さまざまな危険性を孕んでいきます。
これらのリスクを理解しておかないと、
取り返しのつかない事態を招くこともあります。
1. 物理的リスク
- 倒壊・崩落リスク
構造材の劣化、梁・柱の腐朽、雨漏りによる軸組の弱化により、地震や風圧時の倒壊リスクが高まります。 - 火災延焼リスク
隣家との壁距離が近いため、火災が一軒だけでは留まらず延焼しやすい。燃え残り材の散乱も危険。 - 屋根瓦・外壁材の落下
瓦のずれ・外壁モルタル剥離など、通行人に落下物被害を及ぼす可能性。 - 水漏れ・浸水・シロアリ被害
屋根や外壁・基礎の破損から水が侵入し、木部腐朽・シロアリ被害を広げる。 - 基礎沈下・地盤劣化
長年の湿気・地盤変動で基礎にひびが入り、支持力を失うことも。
2. 法令・許認可リスク
- 行政指導・除却命令
空家等対策法に基づく特定空家の指定・除却命令・勧告リスト入りする可能性。 - 再建築制約の継続
再建築不可物件のままでは、次世代へ売却・活用する自由度が大きく制限される。 - 接道義務未達成
接道幅・位置を満たさず建替できない、改築申請が通らないケース。 - 耐震基準未達
現行耐震基準に適合しない建物は建築許可・改修許可を得にくくなる。
3. 近隣トラブル・住環境リスク
- 害虫・ネズミ・ゴミ放置
空き家となるとゴミの放置、荒廃化による虫・小動物の侵入リスク。 - 景観・通風・採光阻害
周囲建物の窮屈化、隣家日照・風通し悪化による苦情。 - 越境・落下物被害
隣家への瓦・外壁片の落下事故、雨だれによる隣地土壌への影響。 - 防犯リスク
無人建物は不法侵入・放火・空き巣の温床になり得る。
4. 資産性・維持コストリスク
- 修繕コスト高騰
放置期間が長いほど補修範囲が拡大し、費用が膨らむ。 - 固定資産税・都市計画税負担
空き家になっても税金がかかり、保有コストだけが積み重なる。 - 売却市場価値の目減り
劣化・制約が重なるほど、買手がつきにくくなり値が下がる。
こうしたリスクは個別には小さく見えても、複合すると所有負担を圧迫し、最終的には “放置できない建物” に変わります。だからこそ、早めの手が不可欠です。

第3章:西成区・阿倍野区に見る典型的な課題構造
長屋・古家を考えるなら、地域特性も鍵になります。
ここでは西成区・阿倍野区を例に、
典型的な課題構造と具体的な相談例を挙げます。
地域概要と住宅密集度
- 西成区
大阪市の中でも路地・細街路が多く残る地域。都市化の波が届きづらく、古家密集地が残存。道路幅1〜2mの路地から徒歩アクセスする家屋も多く、消防車・重機が入りづらい立地が多い。 - 阿倍野区
交通利便性が高く、住宅地として発展してきたが、狭小敷地・古家混在地域が多数。再開発可能エリアと既存密集地が混在しており、地価差も大きい。
典型的課題構造
- 極狭接道・路地奥の敷地
建物前面が私道・袋路のみで接道義務を満たせないケース。 - 隣家接近・壁共用構造
長屋構造で壁を共有しているため、片方だけを触るのが難しい。 - 名義・所有者の錯綜
祖父母名義、相続未登記、遠方居住者名義など、名義整理が必須な相談が多い。 - 経年劣化・部分崩壊
一部の屋根が落ちている、外壁が剥がれかけている、床が傾いているなど、老朽化が局所から広がりつつある事例。 - 解体拒否・売却困難という壁
複雑な条件ゆえ、一般の不動産業者が「扱えない」と判断してしまう事案。 - フォローウィンドには「こういう事情だけどできませんか?」という相談がよくあります。
相談事例(匿名・類似ケース)
- Aさん(西成区)
祖母名義の長屋を相続。現地状態は屋根の一部が崩落。一般業者に見積もりを頼んだが「手がかかりすぎる」と断られた。フォローウィンドに相談し、最低限の仮補強+査定を通じて買い取り案を提示した。 - Bさん(阿倍野区)
築80年の長屋で、隣家との壁が共用。再建築は不可と説明され、手放すか修繕か悩んでいた。複数案を比較し、長屋再生型プランを提示、近隣理解も調整して賃貸化まで導いた例もある。
こうした地域・構造の実情を念頭に置きながら、
将来を描く必要があります。
第4章:将来の選択肢 — “残す/直す/手放す” それぞれの未来
所有者がとるべき選択肢は大きく3つ、
またはその組み合わせです。
それぞれの「未来像」と「注意点」を見ておきましょう。
① 残す(保全・維持管理)
未来像
最低限の修繕を継続しつつ、耐用年数を延ばす。「壊れきるまで持たせる」運用。
メリット
- 手放す準備をしながら時間を稼げる
- 大きな初期投資を回避
- 将来の判断猶予を確保
デメリット/注意点 - 維持コストが累積
- 劣化進行速度が早まれば手がつけづらくなる
- 安全性リスクとのせめぎ合い
- 将来売却・再建築の選択肢を狭めないように余裕を残す設計が必要
② 直す(再生・リノベーション)
未来像
長屋再生、賃貸住宅化、用途転用、文化活用など。地域と連携した「新しい拠点」にする。
メリット
- 実需性を持たせて収益性を見込める
- 建物資源を活かしつつ価値を再構築
- 地域との関わりを創出(シェア拠点、アトリエ、古民家風賃貸など)
デメリット/注意点 - 初期改修コストがかかる
- 法令適合性・構造補強が必要
- 入居者確保・維持管理リスク
- 再生プランが不適切だと収益不足に陥る可能性
③ 手放す(売却・買取・解体)
未来像
現状のまま売却、不動産会社買取、解体・更地化などの選択肢を取る。
メリット
- 即時現金化可能
- 維持管理リスクを手放せる
- 安全責任・修繕責任を転嫁できる
デメリット/注意点 - 買取価格は市場価格より低めになる可能性
- 解体費用が自己負担
- 土地活用制約があると売却価格・更地価値に影響
選択肢比較表(例)
| 選択肢 | 初期投資 | 維持管理 | 安全リスク | 流動性 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 残す | 小〜中 | 中〜高 | 中 | 低 | 残す期間を決めて見直しを |
| 直す | 高 | 中 | 低〜中 | 中 | 入居確保・改修設計が鍵 |
| 手放す | 中〜高 | 低 | なし | 高 | 買取先・解体コストの吟味が重要 |
所有者の資力・意向・地域性・時間軸を考慮して、
この3つを組み合わせた出口設計を図ることが肝要です。
フォローウィンドでは、物件・地域・所有者の意向を踏まえた“最適な出口設計”をご提案するスタンスを大切にしています。
第5章:安全対策 — 今日からできる5つの初動行動
どの選択肢を取るにしても、まず
「現状を把握し、初動対応をする」ことが不可欠です。
所有者がすぐ取りかかれる安全対策を以下に整理します。
① 現地確認・写真記録
まず、自分の目で不具合の箇所を確認・整理します。
- 屋根・軒天・軒先瓦、外壁・モルタルのひび、基礎まわりに割れ・亀裂など
- 床・天井の傾き、雨漏れ痕、水シミ・カビ
- 写真を撮影して、状態記録を残す
この記録が後の業者見積もりや補助金申請のベースになります。
② 近隣への声かけ・苦情防止
放置物件は周囲とトラブルになるケースが多いです。
- 隣地所有者に状態説明をしておく
- 落下防止ネットやフェンス仮設で安全配慮を示す
- 定期的に敷地の清掃・除草を行う
近隣と良好なコミュニケーションを築くことは、将来の理解獲得にもつながります。
③ 応急補修・仮補強
完全な改修ではなく、被害拡大を防ぐための応急手当を行いましょう。
- 雨漏り防止にトタン波板の設置、板金補修
- 瓦のずれ補正、落下防止ネット
- 仮設支柱を入れて屋根や傾斜部を支える
- 外壁の浮きモルタルの除去・補修
これらの補修は比較的低額で済むケースが多く、被害の進行を遅らせます。
④ 専門家・業者・行政相談窓口への相談
- 建築士・構造技術者による劣化診断・耐震診断
- 不動産買取業者(古家・長屋専門)への現地査定
- 区役所・住宅政策課・空き家相談窓口への相談
- 無料相談制度を活用し、複数案を並列で比較
フォローウィンドでも、無料相談・現地調査を重視しており
この段階で選択肢候補を並べさせていただきます。
⑤ 保険・補助制度の活用確認
- 火災保険や建物損害保険の加入・見直し
- 補助金・助成金の適用可否調査
→ 大阪市「空家利活用改修補助制度」などが該当する場合あり (大阪市公式サイト) - 隣地取得・敷地拡張補助制度(建替え支援制度)も調査対象にする (空き家サポート窓口アキマド)
これら初動措置を怠ると、後工程での
選択肢が狭まり、コストも膨らみます。
まず “動ける範囲から手をつける” ことが重要です。

第6章:制度・補助金・行政の支援制度
古家・長屋を再生・改修・解体するには、国・府・市の制度を活用することで、所有者の負担を抑えることが可能です。以下は大阪市および関連制度の主要な支援制度です(2025年時点情報)。
大阪市「空家利活用改修補助制度」
この制度は、空き家となっている長屋・住宅を対象に、耐震診断・改修・断熱・バリアフリー改修などの費用を補助するものです。 (大阪市公式サイト)
主な補助要件・内容例
- 補助対象:平成12年5月31日以前築の戸建・長屋建住宅
- 空家として3か月以上使用されていない状態であること (大阪市公式サイト)
- 補助対象工事例:インスペクション、耐震診断、耐震改修設計、耐震改修、性能向上改修(断熱改修・バリアフリー等) (大阪市公式サイト)
- 補助率・上限例(目安):
・耐震改修:補助率1/2、1戸当たり上限100万円 (大阪市公式サイト)
・性能向上改修:補助率1/2、上限75万円 (リフォームガイド)
・耐震診断:補助率 10/11、上限 5万円/棟 (大阪市公式サイト) - 申請前契約・着手禁止:必ず事前申請・手続きが必要 (大阪市公式サイト)
- 申請締切:耐震診断・設計系は毎年12月26日、改修工事系は12月15日など区別あり (大阪市公式サイト)
この制度の利用によって、所有者の負担を軽減して改修を進める道筋が得られます。ただし “売却前提” の改修は対象外である点など、要件を十分確認する必要があります。 (大阪市公式サイト)
狭小路地沿い老朽住宅解体補助制度
密集市街地整備の一環として、幅員4m未満の狭い路地に面する昭和25年以前築木造住宅の解体に対する補助制度もあります。 (大阪市公式サイト)
対象地区(対策地区・重点対策地区)に該当する場合、解体費用の一部が支援されます。 (大阪市公式サイト)
建替え支援制度(隣地取得補助等)
未接道敷地や狭小敷地を解消するために隣接地取得して戸建に建替える際、設計費・解体費などを補助する制度があります。特に、対策地区や重点対策地区では補助率が高めに設定されていることも。 (空き家サポート窓口アキマド)
防災コミュニティ道路沿道の建替え支援制度もあり、道路後退・不燃化工事に対する補助も設けられています。 (空き家サポート窓口アキマド)
その他関連補助制度
各制度は年度・予算制約により変動がありますが、空家を持つ所有者はまずこれらの支援制度を使えるかどうか“制度チェックリスト”を作成しておくことをおすすめします。

第7章:実際の相談・事例紹介
ここではフォローウィンドが関わった、あるいは類似事案として参考になる実例を交えて、読者によりリアルな判断材料を提供します。
事例1:阿倍野区 K様 — 相続後1年放置 → 解体助成活用による安全除却
K様は阿倍野区で祖母名義の長屋を相続後放置。状態は雨漏り、傾きが進んでいました。近隣からも「瓦が落ちそう」と苦情が出始めたため、フォローウィンドに相談。解体補助制度の適用可否を調べたところ、密集市街地整備地区に該当。補助金を活用して解体し、更地で売却を行いました。結果、安全性を確保しつつ、負担を抑えた移行ができた例です。
事例2:西成区 A様 — 難条件物件を買取 → 迅速現金化
A様は西成区の細路地奥にある築古長屋を相続。多くの業者が「手が出しにくい」と断る中、フォローウィンドが現地調査を行い、最低限の仮補強と清掃を実施の上で買取提案。所有者は現金化でき、メンタル負担を減らせました。築古・建替困難物件にも道がある好例です。
事例3:住吉区 K様 — “放置0円”提示から、まともな価格で売却
大阪近郊の地方都市ですが、K様は自宅の長屋を「0円扱い」と言われ続けていました。フォローウィンドは地域性・構造性を丁寧に評価し、相応の査定を提示。所有者は納得して売却を決断。地方でも、適正な評価が可能であることを示した事例です。
これらの事例に共通するのは、「放置せず、まず動いた」こと。
その先の“出口設計”をきちんと描いたことです。

おわりに・まとめ
長屋・古家を“ただ放置”していては、時間とともに選択肢は狭まり、リスクとコストは重くのしかかります。特に西成区・阿倍野区のような密集地では、早期判断・早期対応が不可欠です。
ここまで説明した内容を踏まえ、所有者が
今とるべき3ステップを改めてご提案します。
今すべき3ステップ
- 現状把握・記録:写真撮影・不具合チェックを行い、状態を可視化
- 専門相談・比較:建築士・不動産業者・補助制度窓口など複数の意見を収集
- 方向性決定とアクション:補強・改修・売却のいずれかを決めて動き出す
「まだ大丈夫」と後回しにしがちな物件こそ、
未来の“痛手”を防ぐための判断が必要です。
フォローウィンドは、あなたの物件の特徴・地域性・思いを丁寧に伺ったうえで、最適な選択肢をご提案します。
まずはお気軽に現地調査・相談をご依頼ください。

よくある質問(Q&A)
長屋・古家は再建築不可でも売れますか?
再建築不可物件でも売却は可能です。ただし、築年・制約・劣化度合いにより価格は抑えられる可能性があります。特に買取業者(古家・長屋専門)や土地利用プランを描ける業者に問い合わせると、残置物件のままの買取や賃貸転用など案が出ることもあります。
解体費用が高くて手を出せないのですが、補助はありますか?
はい。大阪市では狭小路地沿い老朽住宅の解体補助、密集市街地整備地区における解体支援制度があります。解体前に補助申請が必須な点を注意してください。 (大阪市公式サイト)
耐震改修やリノベーションに補助は出ますか?
大阪市の「空家利活用改修補助制度」では、耐震診断・改修、断熱・バリアフリー改修などに補助が出る場合があります。補助率や上限金額にも条件があるため、制度要件を満たすかどうかの事前確認が重要です。 (大阪市公式サイト)
火災や倒壊が起きたら責任は所有者にありますか?
放置状態で事故が起きた場合、所有者(または所有管理責任者)が損害賠償責任を問われるケースがあります。特に隣地被害や通行人被害が発生した場合は重大なリスクです。保険加入・早期補修対応が安全対策として不可欠です。
いつ相談すればいいですか?そのタイミングは?
以下のタイミングで相談を強くおすすめします:
- 相続発生時
- 空き家化して3か月程度経過した時
- 屋根・外壁に明らかな劣化が見えるとき
- 近隣から苦情や指摘を受けた時
- 将来売却・活用を考え始めたとき
早期の相談が、最良の出口設計への第一歩です。



