🏠 相続土地国庫帰属制度は負動産に困る大阪の一般庶民を救うか? ──境界確定できない街区の現実と“庶民の出口戦略”
はじめに:大阪にも“負動産”は確かにある
大阪と聞くと「地価が高い」「土地に困らない」と
いうイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし実際には、**「負動産(ふどうさん)」──つまり“売れない・使えない・維持できない土地”**に悩む人が、都市部にも少なくありません。
特に大阪市内には、戦後からの長屋や連棟住宅、
路地裏の細長い敷地などが数多く残っています。
「親の代からそのまま」「境界線が分からない」「測量図がない」
──そんな土地を相続して困っている人が増えているのです。
2023年に始まった「相続土地国庫帰属制度」は、そうした
“困った土地”を国が引き取る制度として注目されました。
しかし現実には、「これで本当に庶民が救われるのか?」
という疑問も出ています。
この記事では、大阪市内の土地事情を踏まえながら、
制度の理想と現実を分かりやすく整理していきます。

1. 「相続土地国庫帰属制度」とは?─『いらない土地』を国が引き取る仕組み
この制度は、相続や遺贈で取得した土地を、
一定の条件を満たせば国(法務局)に返せる仕組みです。
目的は「管理できない土地を放置しない」
「所有者不明土地を増やさない」こと。
2023年4月から施行され、相続人が利用できます。
ただし、対象になるのは“管理・処分が容易な土地”だけ。
つまり、「安全・明確・単純」な
土地しか引き取ってもらえないのです。
背景には、全国的な空き家・放置地の増加があります。
相続登記がされないまま放置されると、所有者が
分からず、行政や隣地の管理にも支障をきたします。
国としても、こうした土地を整理する
仕組みが必要になったのです。

2. 大阪市内でも深刻化する“負動産”──売れない・測れない・動かせない
「大阪の土地は高く売れる」と思われがちですが、
それは一部の商業地や駅前、いい住宅地のみ。
実際には、市内の密集住宅地や連棟住宅エリアでは
“負動産化”が静かに進行しています。
たとえば東成区や西成区、平野区などでは、
・私道に面した敷地(再建築不可)
・隣家と壁を共有する長屋
・境界線が曖昧なまま50年以上経過した土地
が数多くあります。
「親の家を壊したいけど、どこまでが自分の土地かわからない」「測量を頼もうにも、隣の家の人が応じてくれない」
──これが、大阪市内でよくある“現実”です。
こうした土地は、**売却も寄付も難しく、結局
「持ち続けるしかない」**という状況に陥ります。
そして固定資産税や管理責任だけが重くのしかかる
……これが負動産の典型例です。

3. 制度の利用条件──境界があいまいでは申請すらできない
相続土地国庫帰属制度を使うには、
細かい条件をクリアしなければなりません。
主な条件を整理すると以下の通りです。
| 区分 | 内容 | 大阪市内での課題 |
|---|---|---|
| 建物の有無 | 建物・工作物がある土地は不可 | 長屋・連棟は解体が必須(解体費50〜100万円) |
| 境界 | 境界が明確でないと不可 | 測量・隣地合意が必要だが難航しやすい |
| 権利関係 | 抵当権・賃借権・地役権がないこと | 古い登記簿に昔の権利が残っているケース多い |
| 土地形状 | 管理・処分に過分な費用がかかる土地は不可 | 崖地・私道・路地裏は対象外になりやすい |
特に大阪で問題になるのは「境界」。
境界が確定できないと、国としても安全に引き取れないため、申請自体が受け付けられません。
土地家屋調査士に依頼して測量を行う
必要がありますが、費用は20〜40万円前後。
さらに、隣地の立会いが
得られなければ作業は止まります。
つまり、大阪のような密集地では
「申請にたどり着くまでが最難関」なのです。

4. データで見る制度の“現実”──利用件数の少なさと高いハードル
法務省の発表によると、2025年5月時点での全国申請件数は約3,800件、うち帰属が認められたのは1,700件程度。
承認率はおよそ4割です。
つまり、半分以上が却下・補正・取下げに
なっている計算です。
この数字からも、「誰でも簡単に使える制度ではない」ことが分かります。
さらに費用の負担も軽くありません。
- 申請手数料:1筆あたり14,000円(不承認でも返金なし)
- 承認後の負担金:約20万円前後(10年分の管理費相当)
- 測量・登記・解体など準備費:数十万円〜100万円近くになるケースも
庶民にとっては、「国に引き取ってもらうためにお金を払う」という感覚が理解しづらいものです。
この「費用負担の逆転構造」こそが、
制度の最大のネックかもしれません。

5. “庶民救済”には程遠い?──境界問題が生む行き詰まり
大阪市内の実例を挙げると、「祖父母の土地を相続したが、
登記も境界も不明」というケースが非常に多いです。
特に古い住宅地では、登記簿の地積と現況の面積が
大きくズレていることも珍しくありません。
「図面上は100㎡なのに、実測すると90㎡しかない」
「お隣さんの塀が越境しているけど、誰が建てたのか分からない」
こうした問題は、法務局も介入できず、
個別解決しか方法がありません。
つまり、国庫帰属制度の“入り口”にすら立てない庶民が多いのです。
大阪は地価が高く、税負担も重い地域。
にもかかわらず、「売れない土地」を抱えたままの
人が増えている──これが今の都市型負動産の現実です。

6. それでも諦めない!
庶民が取れる現実的3ステップ
① 相続登記を済ませる(2024年4月から義務化)
まずは所有者を確定させることが第一歩。
登記をしておかないと、売却も申請もできません。
未登記のまま放置していると、
次の世代でさらに複雑になります。
② 境界を“見える化”する
土地家屋調査士に相談し、現況測量を依頼します。
隣地立会いが難しい場合でも、法務局の資料
(公図・登記簿)を元に確認可能です。
境界を明確にしておくことは、売却・寄付・
国庫帰属のどのルートにも共通して重要です。
③ 複数の出口を並行検討する
「国庫帰属制度だけに頼る」のは危険です。
・隣地への売却(地元業者が仲介可能)
・自治体への寄付(公共用地活用など)
・空き家解体後の簡易売却
など、複数ルートを並行して検討する方が現実的です。

7. 制度が“庶民を救う”ために必要なこと
国庫帰属制度の理念は素晴らしいものです。
しかし、現場で動いている行政書士・司法書士の声を聞くと、
共通して「制度のハードルが高すぎる」という意見が出ます。
これから求められるのは以下のような改善です。
- 測量・登記費の補助制度(自治体単位での支援)
- 高齢者・低所得者への負担金減免
- 境界不明地でも暫定帰属できる特例創設
- 地方自治体と法務局の連携強化
大阪のような密集市街地こそ、
制度が真価を発揮すべき地域。
「庶民が使えない救済制度」ではなく、
「庶民のための現実的制度」に進化させる必要があります。

まとめ:制度の理念は正しい。
だが“庶民を救う”にはまだ遠い。
相続土地国庫帰属制度は、
「放置された土地を減らす」ための大きな一歩です。
しかし現時点では、
- 境界確定が難しい土地は対象外
- 手続き・費用・期間の負担が重い
- 実際に使えるのは限られた人だけ
という現実があります。
大阪のような街では、境界未確定や連棟住宅の
構造問題が制度適用の最大の壁です。
とはいえ、「何もできない」と諦めてしまうのは危険。
登記・測量・相談を少しずつ進めておくことで、
将来の選択肢を広げることはできます。
庶民が救われる制度にするには、行政の柔軟な対応と、
私たち一人ひとりの“意識の更新”が欠かせません。

不動産相続・負動産対策でよくある質問(大阪市内版)
Q1. 境界が不明なまま相続登記できますか?
A. 登記は可能ですが、その後の売却や
国庫帰属が難しくなります。
測量を早めに行いましょう。
Q2. 長屋や連棟住宅でも国庫帰属できますか?
A. 建物が残っている場合は申請不可です。
解体後、隣地との境界確認が必要です。
Q3. 測量費が高くて困っています。
A. 一部自治体では、空き家除却や測量補助制度があります。
行政窓口に相談してみましょう。
Q4. 隣地所有者が不明な場合は?
A. 司法書士・土地家屋調査士が戸籍・登記から
所在を追えることがあります。
個人で動くより専門家へ。
Q5. 放置したらどうなりますか?
A. 固定資産税が発生し続け、老朽化による倒壊リスクも。
最悪の場合、行政代執行の対象になることもあります。

💬 最後に
大阪の土地は、にぎやかな街並みの裏側で、
複雑な“負動産”問題を抱えています。
国庫帰属制度はその一部を救う制度ではありますが、
すべての庶民を救う“魔法の仕組み”ではありません。
それでも、「動かせない土地を放置しない」という意識を持つことが、これからの世代を守る第一歩になります。
